本研究は加齢に伴うアンドロゲンの低下がサルコペニアの要因となる分子機序を明らかにすることを目的とする。特にアンドロゲンの抗炎症作用に着目し、アンドロゲン低下による骨格筋での炎症惹起、主たる炎症性細胞や筋特異的な炎症経路の解明を目的とする。昨年度に検討した内因性アンドロゲン低下が骨格筋に及ぼす影響の結果を踏まえ、今年度は運動による骨格筋内アンドロゲンの上昇が骨格筋の代謝・機能にもたらす効果を検討した。さらに、ワイヤー固定による廃用性筋委縮モデルを用いて、筋委縮におけるアンドロゲン受容体の関与を検討した。 具体的には精巣摘出後に血中テストステロン値の有意な低下とともに、筋重量および筋横断面積、骨密度の有意な低下が認められた。筋力と運動機能においても同様の低下傾向が見られた。作用機序としては筋分解因子や炎症性サイトカインの発現上昇が関わることが分かった。さらに、精巣摘出後に8週のトレッドミル負荷による運動効果を検討した結果、筋力と運動機能が有意に改善したことがわかった。筋量においては運動による有意な改善効果が認められなかった。筋合成・分解因子の発現にも有意な変化はなかった。 また、ワイヤー固定による廃用性筋委縮モデルを用いて、アンドロゲン受容体の筋委縮への関与を経時的に検討した結果、ワイヤー固定1日後からアンドロゲン受容体の急激な発現低下が認められ、2週間まで続いた。これからの結果から、骨格筋(特に腓腹筋)においてアンドロゲンおよびアンドロゲン受容体が筋分解因子や炎症性サイトカインの発現制御を介して筋炎症および筋代謝を制御することが考えられる。今後、運動介入やアンドロゲン受容体の制御による炎症抑制の機序を明らかにすることでサルコペニア予防および治療策として提案できる。
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