研究課題
パーキンソン病を含めたパーキンソン症候群(PS)は,原因不明の進行性の神経変性疾患であり,未だに有効な治療法はない.PSでは臨床的に鑑別診断が困難な場合が少なくない.申請者らは脳脊髄液を用いたプロテオミクス解析を行い,PSのひとつである進行性核上性麻痺(PSP)に特異的なバイオマーカー候補としChromogranin B(CHGB)をはじめ36種類の分子を得た.また,microRNAアレイ解析によって8個のPSP特異的microRNA候補を得てきた.本研究では,詳細な臨床情報の整った多数例の検体による検証実験を行い,PSの早期診断,病態解明,治療戦略に資するシーズを得ることを目的としている.脳脊髄液のプロテオミクス解析によって得られた36種類の候補分子についてpathway enrich解析を行い,細胞外マトリックス,ECMプロテオグリカン,翻訳後タンパクリン酸など4つのpathwayに関連した12種類の分子について統計学的に有意な解析結果を得た.CHGBではバリアントのひとつであるbCHGB_6255が,PSPに特異的な変化を示すことが明らかとなり,bCHGB_6255のアミノ酸配列の同定化を試みた.神経系培養細胞から抽出したライセートを用いた免疫沈降法,SDS-PAGEによる電気泳動法にて銀染色で検出できるまで精製した.アミロイド前駆タンパク(APP)は,多数のバリアントが存在することより,PSPに関連の強いバリアントを同定するためにAPPのN末,ならびに,C末を抗原とする抗体を用いたWestern blotting法を行い,半定量的に有力な2種類の候補バリアントを得た.また,PSP特異的microRNAについては,多数例の血清中のmicroRNAを用いたqPCRによる検証研究を行い,3種類のmicroRNAにおいて再現性が確認できており,更に多数例での解析を進めた.
3: やや遅れている
脳脊髄液によるプロテオミクス解析によって得られた36種類のPSPに特異的な変化を示す候補についてpathway richment解析によって候補分子の絞り込みを行い,それぞれの候補について検証研究を進めてきたが,進捗が遅れている.CHGBについては,脳脊髄液や剖検脳組織から抽出したライセートを用いたWestren blottingによる半定量的な解析を計画していたが,特異的な抗体が得られなかったこと,脳脊髄液や剖検脳組織から抽出したライセートにおけるbCHGB_6255の含有量が非常に少なく,検出に困難を極めた.神経系培養細胞から抽出したライセートを用いてbCHGB_6255の決定を目指している.APPについては,脳脊髄液を用いたWestern blottingによる比較検討を計画したが,Westrn blottingが安定せず,条件設定に苦慮した.内在性タンパクであるβ-actinに対する比を算出することによって解析が可能となった.miRNA解析については,qPCRによる定量が安定しないために試薬の選定,PCR条件の検討に時間を要し研究計画が遅れた.また,その他の候補についてELISA法にてvalidation研究を計画していたが,COVID-19の感染拡大による診療情勢,海外からの試薬が入手困難な状況が続いていることも研究遅延に影響した.
プロテオミクス解析などによって得られているバイオマーカー候補について,これまでの解析結果を踏まえ検証研究を継続する.CHGBについては,神経系培養細胞を用いた免疫沈降法,SDS-PAGEによる電気泳動によってbCHGB_6255を精製し,アミノ酸配列の決定,更にはHPLCによる定量化システムの構築を計画している.APPについては,脳脊髄液を用いたWestern blottingによる半定量化による多数例での解析を進める計画である.miRNA解析については,qPCRによる多数例での解析を継続する計画である.その他の候補については,ELISA法にて検証研究を進める計画である.上記の検証研究によってバイオマーカーとしての有用性について検討するとともに臨床亜型の見直し,新たな疾患概念の考察も含め解析を継続する.また,各バイオマーカー候補について剖検脳組織標本を用いた生化学的,免疫組織染色などによる解析,培養細胞を用いた生化学的,分子生物学的な解析を行い,病態との関連を検討する.
パーキンソン症候群のバイオマーカー候補であるCHGB由来のbCHGB_6255解析の同定が困難であり,研究の進捗が遅れていた.他の候補についても検証実験が安定せず測定条件の検討に時間を要した.COVID-19の感染拡大の影響もあり海外からの試薬等の購入がずれ込んだ影響もあったため次年度使用分とした.速やかに研究計画を推進し,研究費を使用する予定である.
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