研究課題/領域番号 |
19K07944
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
黒崎 祥史 北里大学, 医療衛生学部, 助教 (20602030)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | メガリン / 糖尿病 / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
本研究では、近位尿細管上皮細胞(HK-2)を用いてメガリン発現の変動に着目した糖尿病性腎症の新規尿中バイオマーカーの探索を目的に研究を行う。本年度はメガリン発現に伴う制御的膜内切断(RIP)の活性化がメガリン発現に及ぼす影響について検討した。RIPは切断されたメガリンの細胞内ドメインが核に移行して自身の発現を負に制御する現象である。これまでの不死化近位尿細管上皮細胞を用いた検討で、過酸化水素の添加によりメガリン発現は短期的に(4.5h~6h)に上昇するが、その後減少に転じて長期的にはメガリン発現は低下する(24 h~)ことがわかっている。そこで、RIPに重要であるγ-secretase 阻害によりメガリンRIPを阻害すると、長期的なメガリン発現減少を抑制した。一方で、PKC活性化によりRIPを促進したとき、短期的なメガリン発現の上昇を抑制した。同様の傾向が、メガリン mRNAレベルにおいても見られた。また、γ-secretaseの構成タンパクであるPresenilin-1 (PSEN-1)をsiRNAにてノックダウンすると、長期的なメガリン発現減少を抑制する傾向にあった。一方で、過酸化水素を添加しない状態では、γ-secretase阻害剤添加および PSEN-1ノックダウンによるRIPの阻害はmegalin発現に影響を及ぼさなかった。これらのことはメガリンRIPは酸化ストレスによるメガリン発現の上昇に対するメガリン自身のネガティブフィードバック機構であることを示唆する。興味深いことに、メガリンRIPによって生じるメガリンの細胞内C末端ドメイン(MCTF)が過酸化水素処理により細胞上清中に排泄されることが明らかになった。培養上清中のMCTF増加は、酸化ストレスが付加されていることを示すため、上清中MCTFは糖尿病における尿細管障害マーカーになりうる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸化ストレスによるメガリンの上昇が、制御的膜内切断(RIP)によってネガティブフィードバックされていることを示すことができた。また、この現象に関連する分子であるメガリン断片が培養上清中に排泄されている可能性を確認できたため、概ね順調であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
培養上清中に排泄されるメガリンの断片は細胞内ドメインであるため、単純に細胞外ドメインが切断されて培養上清中に排泄されるわけではない。今後は、メガリンの細胞内ドメインの排泄が制御的膜内切断(RIP)に付随して起こる現象であること、およびエクソサイトーシス等の機構を介して排泄されることなどを検討し、酸化ストレスによるメガリンRIP亢進との関連を明確にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
キャンペーンやセットで販売されている抗体を購入することで、当初予定していたよりも若干抗体購入費用を低く抑えることができた。また、条件設定の決定が想定よりスムーズに行えたため、培養器具等の使用も想定より少なかった。 生じた次年度使用額を用いて、エクソソーム解析に用いる抗体や分離剤の購入に充当したいと考えている。
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