研究実績の概要 |
脳波で観察されるてんかん性放電は、てんかんの診断において重要である。しかし、その同定はしばしば困難であり、過剰判読や見逃しが多い。様々な自動検出 の方法が提案されているが、習熟した脳波判読者のレベルには達していないのが現状である。近年、てんかん性放電は、てんかん焦点から離れた領域にも、広範囲に脳波変化を引き起こすことが指摘されてきている。本研究では、この点に着目し、てんかん性放電の遠隔効果を探索し、それらを組み合わせることで、 機械学習を利用した、客観的な診断手法を開発することを目的とした。難治性焦点てんかん患者の、外科手術全検査の一環として記録された、頭蓋内脳波と頭皮上脳波の同時記録を解析対象とした。頭蓋内脳波でのみ確認できる海馬の発作間欠期てんかん性放電(interictal epileptiform discharge, IED)が頭皮上脳波に与える影響を解析した。その結果、ノンレム睡眠時に、海馬IEDが部位特異的に睡眠紡錘波を惹起することを見出した。次に、サポートベクターマシーンを用いて、海馬IED出現時と、非出現時のノンレム睡眠時の頭皮上脳波を、非てんかん患者の頭皮上脳波と分類する分類器を作成し、有用性を検証した。Line length、複数の周波数帯域のパワー値、振幅の分布の非対称性、電極間の同期性などを特徴量として分類器を作成し、クロスバリデーション法で 検証したところ、高い正解率、適合率、再現率が得られ、良好な結果であった。また、この分類器の汎化能力を検証するために、別の患者群の頭皮上脳波に適用したところ、抗てんかん薬内服中と中止中の脳波での差を認めた。この結果は、IEDは遠隔効果によって頭皮上脳波に変化を与えており、IEDが頭皮上脳波では視認できない場合でも、てんかん患者の脳波と、正常脳波と区別することが可能であることが示唆された。
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