研究課題
私たちは,これまで約30例の孤発性ALS例と疾患対照,正常対照例の剖検組織の検討からグルタミン酸受容体サブユニットであるGluA2のRNA編集異常が疾患特異的に生じていることを明らかにした.また,この分子異常が下位運動ニューロンの脊髄運動ニューロン死の直接原因になることをコンディショナルノックアウトマウスの動物実験から明らかにし,孤発性ALSのモデル動物を確立した.このモデル動物を利用し,薬剤としてはペランパネルの臨床治験が行われ,今後もさらに有効かつ安全性の高い薬剤,遺伝子治療をはじめとした治療法の開発が進められている. これらをふまえて,私たちはRNA編集異常が下位運動ニューロンである脊髄運動ニューロンのみではなく,上位運動ニューロンを含む大脳の神経細胞死の原因となっているのかどうか,上述した疾患モデルマウスを用いて検討した. その結果,上位運動ニューロンである大脳でも下位運動ニューロンの脊髄と同様の神経細胞死が生じていることが分かった.さらに,これらのマウスの大脳皮質の神経細胞でもTDP-43が核から細胞質に出てしまうといった孤発性ALSで認められるTDP-43病理を呈していることが今年度の研究ではじめて明らかになった.以上から,孤発性ALSにおいて上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの変性が同様の経路を介して生じている可能性が高いと考えられた.これらは発症メカニズムに基づいた分子標的治療法を開発する上で重要な手がかりである.現在,他の因子の関与はあるのか,分子生物学的,病理学的に解析を行い,さらに病因を明らかにすべく,研究を継続中である.
2: おおむね順調に進展している
動物実験に必要なノックアウトマウスの継代を行い,行動解析の他,免疫組織化学的実験,分子生化学的実験にて上位運動ニューロンの検索を行っている.成果のいくつかは学会発表,論文投稿が出来た.一方で今年度も外来医長としてCOVID-19対応,外来業務の増加,入院対応,酸素ステーション派遣業務,ワクチン接種,電話診療,PCR検体採取業務といった診療業務が昨年よりさらに増加した.大学院生もCOVID-19診療,業務が増え,実験を行う時間・人員が昨年度と同様の水準で減少した.そのため,計画的に実験を進めること,プログレスミーティングでの討論で実験結果の解析を早めに行うことで実験遂行上の問題点を早期に解決することでおおむね順調に計画を遂行している.
ADAR2コンディショナルノックアウトマウスの解析から上位運動ニューロンにおいても下位運動ニューロンと同様の神経細胞死が生じており,解析マウス数を増やすことでTDP-43病理の所見を得ることが初めて出来た.継続して,上位運動ニューロン全般の検索,神経細胞死を来たす原因,細胞間の差異について免疫組織学的,病理学的検査を進めていく.また,分子生物学的手法を用いて,RNA編集異常について検索を継続しており,条件設定などコントロールにて行い,モデルマウスでの解析を開始する.これらの病因解析から分子標的薬を中心とした効果的な治療に結びつくカスケードの発見に努めていく.
新型コロナ感染症流行のため,参加・発表予定であった国際学会への参加,国内学会現地参加が中止となったこと,PCRで必要な試薬が海外から搬入が遅延・停止したことから次年度使用額が生じた.そのため,次年度の抗体購入,動物実験機材の購入にあてる予定である.
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
Journal of the Neurological Sciences
巻: 436 ページ: 120187~120187
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JAMA Neurology
巻: 78 ページ: 853~853
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