【背景】遠隔虚血コンディショニング(Remote ischemic conditioning:RIC)は、標的臓器から離れた遠隔組織(通常四肢)に虚血負荷を行い虚血侵襲から保護する戦略である。脳虚血に対するRICの保護効果は実験的脳卒中モデルで報告されヒト脳梗塞患者を対象とした臨床研究も進行している。RICによる脳保護効果には神経刺激、液性因子および免疫調節の関与が想定されているがその詳細は明らかではない。 【目的】我々は中大脳動脈永久閉塞に対して遠隔虚血コンディショニング(RIC:remote ischemic conditioning)を1日1回行うことで72時間後まで脳保護効果が観察される事、一酸化窒素合成酵素阻害薬投与で脳保護効果が消失する事を昨年までの成果で報告している。本年度は、RICの脳血管内皮機能への関与を明らかにすることを目的とした。 【方法】成熟C57BL/6雄マウスを用いてイソフルレン吸入麻酔下で左中大脳動脈(MCA)を露出させ嗅索より近位部を永久閉塞した。MCA閉塞から70分間の脳皮質血流をモニターした。RIC群はMCA閉塞30分後から両側下肢鼠径部でカフを用いて200mmHgの負荷をかけ5分間駆血5分間解放を4回反復した。対照群は遠隔虚血負荷なしで同じ時間麻酔をかけ偽負荷を行った群とした(Sham群)。遠隔虚血負荷直後または偽負荷直後に脳を摘出し、eNOS蛋白、Akt蛋白と各リン酸化の発現、Fodrin蛋白分解物の発現をウエスタンブロット法により確認した。 【成績】リン酸化eNOS、リン酸化AktはSham群に比べてRIC群で亢進しており、Fodrin蛋白の分解はSham群に比べてRIC群で抑制されていた。 【結論】マウス中大脳動脈永久閉塞に対する遠隔虚血コンディショニングの効果は血管内皮機能を介していることが示唆された。
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