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2022 年度 実施状況報告書

mGluR5異所性発現による神経変性疾患発症メカニズムの解明

研究課題

研究課題/領域番号 19K07971
研究機関東京大学

研究代表者

中尾 晴美  東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (50535424)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2024-03-31
キーワード代謝型グルタミン酸受容体 / 小脳プルキンエ細胞 / mGluR5 / mGuR1 / シグナル伝達 / 神経変性疾患 / 老化 / 遺伝子組換えマウス
研究実績の概要

代謝型グルタミン酸受容体mGluRはGタンパク質共役型受容体であり、グループIに属するmGluR1とmGluR5はGqを介してシグナル伝達を行う。mGluR1は主に成体マウスの海馬歯状回、視床、小脳皮質で、mGluR5は大脳皮質、線状体、海馬CA1-CA3領域で多く発現しており、相互排他的な発現をしている。小脳ではmGluR5 の発現量が発達期から成熟期へ向けて減少し、それとは対照的にmGluR1の発現量は発達期から成熟期へ向けて増加していく。脊髄小脳変性症のモデルマウスでは、成体の小脳プルキンエ細胞において、mGluR1の発現量が減少するとともに、mGluR5の発現量が増加していることが報告されており、mGluR1やmGluR5が様々な精神疾患や神経変性疾患と関連していることも数多く報告されている。
本研究では、小脳プルキンエ細胞特異的にmGluR5を発現するようなマウスを作製し、このマウスをmGluR1ノックアウトマウス(mGluR1 KO)と掛け合わせた。mGluR1 KOマウスでは、シナプス形成の異常、小脳運動失調、瞬目反射条件付け学習の異常などが見られるが、mGluR5トランスジーンによりこれらの表現型すべてが回復することがわかり、小脳プルキンエ細胞ではmGluR5がmGluR1の機能を代替できることがわかった。しかしながら、mGluR5をmGluR1のかわりに発現するマウスでは、mGluRの足場タンパク質であるHomerとの結合量が少ないことが観察され、シグナル伝達効率に違いがあることが示唆された。また、これらのマウスでは加齢に伴って体重減少や寿命の短縮が見られ、特に雄個体では雌個体よりも早い9ヶ月齢あたりから、それらの表現型が見られた。摂食量や、協調運動能には異常がないことも確認できた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

小脳プルキンエ細胞特異的にrat mGluR5を発現するようなトランスジェニックマウス(L7-mGluR5a Tg)を、mGluR1 KOマウスと交配することにより、mGluR1 KOの小脳プルキンエ細胞でmGluR5を発現するようなmGluR5-rescueマウスを作製し、mGluR1 KOマウスで 見られる小脳運動失調が、mGluR5の発現量に依存して改善することを確認した。さらに、小脳運動失調以外の、登上繊維―プルキンエ細胞シナプス間のシナプス除去異常や、瞬目反射条件付け学習の異常などの表現型についても解析を行い、これらの事象においてもmGluR5がmGluR1の機能を代替できることを明らかにした(Harbers, M., et al., Cells, 2022)。
上記のようにmGluR1 KOマウスの表現型をレスキューできたことから、トランジーンからのmGluR5の発現量が十分であることが確認できた。一方で、内在性のmGluR1が欠損している状態でmGluR5を発現するマウスではmGluRの足場タンパク質であるHomerとの結合量が少ないことが観察され、シグナル伝達効率の違いが示唆された。また、L7-mGluR5 Tgマウスでは、加齢に伴い、体重減少も観察された。雄個体では雌個体よりも早い9ヶ月齢あたりから、体重減少や毛色の変化および生存率の低下が見られた。まだ解析に用いた個体数が少ないものの、9-10ヶ月齢では摂食量や、協調運動能には異常がないことも確認できた。体重に有意な差のある12ヶ月齢のマウスの小脳のRNA-seq解析も実施した。
これらのことから、おおむね順調に進展していると考える。

今後の研究の推進方策

L7-mGluR5a Tg雄個体では、体重減少が9ヶ月齢から起こり始め、12ヶ月齢では野生型マウスと有意な差が認められた。9-10ヶ月齢では摂食量や協調運動能には異常がないことをマルチフィーダーを使用した摂食量測定や、ロタロッドによる運動テストで確認した。12ヶ月齢のマウスの小脳をサンプリングしてRNA-seq解析を行なったところ、老化に関わると思われる多くの遺伝子に変化があったが、サンプリングの際の脈絡叢の取りこぼしなどが原因と考えられたため、脈絡叢の取りこぼしを防ぐようなサンプリング方法に変更し、10ヶ月齢と12ヶ月齢の小脳を含むサンプルを用いて再度RNA-seq解析を行う。
摂食障害や運動失調の可能性については、さらに個体数を増やし、より高齢マウスでの確認を行う予定である。また、神経変性のマーカーを用いた組織学的解析及び記憶・学習・認知に関わる行動解析を行うため、野生型マウスとL7-mGluR5a Tgマウスが得られる組み合わせの受精卵を作製し、仮親に移植済みである。
雌個体は雄個体に比べて、体重減少や毛色の変化、寿命の短縮が遅い時期に現れるが、こちらについても解析を行う予定である。

次年度使用額が生じた理由

RNA-seq解析の時期が年度末にかかったため、次年度に持ち越すことにした。今後も解析予定の個体が多くありそちらに使用する予定である。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2022

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] mGluR5 Is Substitutable for mGluR1 in Cerebellar Purkinje Cells for Motor Coordination, Developmental Synapse Elimination, and Motor Learning2022

    • 著者名/発表者名
      Harbers Maria、Nakao Harumi、Watanabe Takaki、Matsuyama Kyoko、Tohyama Shoichi、Nakao Kazuki、Kishimoto Yasushi、Kano Masanobu、Aiba Atsu
    • 雑誌名

      Cells

      巻: 11 ページ: 2004~2004

    • DOI

      10.3390/cells11132004

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 小脳プルキンエ細胞特異的なmGluR5の発現はmGluR1の運動協調およびシナプス刈り込みの機能を代替できる2022

    • 著者名/発表者名
      ハーベスまりあ、中尾晴美、渡邉貴樹、岸本泰司、狩野方伸、饗場篤
    • 学会等名
      第45回日本神経科学大会 Neuro2022

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公開日: 2023-12-25  

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