研究課題
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は代表的な神経難病であるが、近年病態関連遺伝子が数多く同定されている。30種類以上判明しているALS関連遺伝子はRNA代謝やタンパク質品質管理などの機能に分類でき、依然謎であるALSの病態解明と根治的治療法開発の重要な手がかりになりつつある。しかし判明したALS関連遺伝子の多くは家族性ALSの解析から同定されており、大部分を占める孤発性ALSの関連遺伝子は十分に分かっていない。より多くのALS関連遺伝子を探索同定する必要があるが、通常そのためには数千例以上の規模でのゲノムワイド関連解析が必要であり、容易ではない。しかしパーキンソン病とゴーシェ病との関連のように、異なる疾患の関連が遺伝子により示される場合があり、その発想を用いた候補遺伝子アプローチにより、効率よくALS関連遺伝子を探索同定できる可能性がある。本研究では、多数のALS患者のDNA検体及び縦断的臨床像を用いて、ALS以外の神経変性疾患、筋疾患、末梢神経疾患の関連遺伝子の網羅的解析を行い、それらの変異とALSとの関連を明らかにする。令和4年度においては、孤発性ALS 1076例の網羅的遺伝子解析データを用いて、ALSの生存期間に影響する遺伝子を複数同定し、患者由来のiPS細胞を用いて病態を再現した。それらの成果をまとめ、令和4年3月の時点で論文投稿中である。また、既知の神経疾患に関連する遺伝子とALSとの関連がないか解析を進めている。また、ALS患者1,077例の全ゲノム解析データを解析し、5つの遺伝子に病原性が疑われるリピート伸長変異を認めた。また、既知の脊髄小脳変性症原因遺伝子のリピート伸長変異を複数の症例に認めている。また、他にも複数の疾患関連遺伝子の候補を見いだしており、それらの機能解析をすすめている。
3: やや遅れている
既に当初予定していた症例を上回る例数の孤発性ALS患者に対して網羅的な遺伝子解析を施行したが、令和4年度は研究室内でのCOVID-19の流行及び研究代表者のCOVID-19感染により、実験や研究が行えない期間が計2ヶ月程あり、想定よりも研究が進まなかった。抽出されたvariantを今日までにALSやFTLD、認知症、遺伝性痙性対麻痺、末梢神経障害、筋疾患の発症の原因として同定されているもの、ALSや上記疾患の発症には無関係であると同定されているもの、またそのどちらでもないものに分類し、それぞれサンガー法で変異の有無を確認している。いくつか疾患関連遺伝子の候補を見いだしており、それらの機能解析も進めている。
令和5年度も引き続き、遺伝子解析未施行の残りの孤発性ALS検体に対して網羅的なシーケンスを行った上で抽出されたvariantについての解析を施行する。また、現在見いだしている疾患関連遺伝子の候補に関して分子生物学的検討を行ったり、variantを持つ症例と臨床像との関連も検討する。臨床像との関連が判明したvariantを持つALS患者に対して剖検が施行されていれば、病理学的検索を行い、患者由来のiPS細胞を用いて病態解明につながる検索を行っていく予定である。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響をうけ、国際学会、国内の学会の多くがウェブ開催となった。そのため、他の研究者との議論や情報交換もできなかった。また、予定していたサイトライセンス使用料を別の研究費で賄うことができた。令和4年度は研究室内でのCOVID-19の流行、また、研究代表者や家族のCOVID-19感染により、実験や研究が行えない期間が計2ヶ月程あり、想定していたよりも研究が進まず、試薬の使用量も少なかった。今年度は実験試薬の購入や論文執筆、投稿に必要な費用に充当する予定である。
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The Journal of Neuroscience
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