研究課題/領域番号 |
19K07974
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
高橋 哲也 広島大学, 病院(医), 講師 (00435942)
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研究分担者 |
大古 善久 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (10304007)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / タウ蛋白 / リン脂質 / ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病の脳では変性した神経細胞内にタウ蛋白の凝集体である「神経原線維変化」が観察される。In vitroでは陰性の電荷を有するヘパリンがタウ蛋白凝集促進因子として凝集過程の解析に多用されているものの、実際の病態にヘパリンが関与しているとする報告はいまのところない。一方で本研究の予備的な検討では、タウ蛋白の凝集体に隣接して陰性に帯電した特定のリン脂質<PIP2:phosphatidylinositol(4,5)bisphosphate>が高密度に共存していることを剖検脳で確認している。この知見は何らかの機序で神経細胞内に増加したリン脂質PIP2が、タウ蛋白を凝集させ線維状の構造物に変換させる「ドライバー」として機能し、神経原線維変化を促進している可能性を示唆する。そこで本研究では、タウ蛋白を高発現する細胞にPIP2を誘導するベクターを導入する、もしくは表面が陰性に帯電したナノ粒子を細胞質内に送達することによって、実際の変性途上にある神経細胞と相同な環境の創出を試みた。まずエンドサイトーシス後のナノ粒子がエンドソームから細胞質にエスケープしていることを確認した。細胞固定後に透過処理を行った上でチオフラビン染色することで、タウ蛋白の凝集の有無を確認したところ、ナノ粒子の近傍にタウ蛋白のアミロイドに起因すると考えられるチオフラビンの蛍光を認めた。またナノ粒子と同じくカルボキシル基を複数有する蛍光色素であるカルセインを用いた検討でも同様にチオフラビンの蛍光が観察された。PIP2を誘導するベクターを導入した場合でも、数少ないPIP2陽性細胞では蛍光が増強する蛍光がみられた。以上の結果は細胞内における陰性荷電物質の蓄積がタウ蛋白の凝集を促進因子であるとの仮説と矛盾しないものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
細胞内のアミロイドを観察するスタンダードな手法が確立されておらず、本研究では組織でのアミロイド検出に用いられるチオフラビンを使用することで、タウ蛋白の細胞内アミロイド検出を試みている。その染色方法の検討とシグナル・ノイズを識別可能な撮影条件の検討に時間を要したため、予定よりはやや遅れている。またPIP2を誘導するベクターを導入する実験も行っているがトランスフェクション効率が低いため、観察しえた細胞数が少なく、チオフラビンの蛍光が上昇する傾向を認めるものの確定的な結論を出すには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
PIP2を誘導するベクターを導入する実験を繰り返し、観察対象の細胞数を増やすことでデータの精度向上を図る。ナノ粒子を用いた実験では、カチオンでナノ粒子の陰性電荷をマスクした上で細胞内に導入することで、タウ蛋白の凝集効果がキャンセルされるかについて確認する。またナノ粒子のタウ蛋白に対する作用をヘパリンのそれとin vitroで比較するため、現在タウ蛋白の精製を進めている。さらにナノ粒子、ベクターを用いた細胞モデルを電子顕微鏡で観察しタウ蛋白の凝集体の超微細構造を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞内でのタウ蛋白の凝集体誘導とチオフラビンを用いた細胞内タンパク凝集体観察条件検討に時間を要したことから、その後に予定していた電子顕微鏡による細胞内凝集体の観察、段階可溶化法による生化学的な検討については初期段階に留まり遅延が発生したため。
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