研究課題
アルツハイマー病では細胞の外に存在するアミロイドβペプチド(Aβ)が神経細胞内のタウ蛋白の蓄積、細胞死を惹起すると考えられている。本研究ではAβが細胞に取り込まれる(細胞がAβを内在化する)ことがそれ以降のプロセスの最初のステップになると仮定して、培養細胞にAβを投与する実験並びに培養細胞内に陰性電荷を導入した場合のタウ蛋白の変化に関する観察を行った。これまでにAβを多量体化した場合のみ濃度依存的・時間依存的に各種培養細胞に取り込まれることを明らかにした。このAβの内在化は細胞表面の特殊な膜構造である脂質ラフトを崩壊させると抑制されること、細胞表面に存在するプロテオグリカンをブロックないし除去することにより同じく抑制されることを昨年度までに明らかにしていた。今年度はマクロピノサイトーシスという細胞の物質取り込み機構を阻害する実験を行い、細胞が脂質ラフト、プロテオグリカン依存的なマクロピノサイトーシスの機序によりAβを内在化することを見出した。マクロピノサイトーシスを制御する分子としてRac1やArf6などが知られており、培養細胞にAβを投与したのちのRac1とArf6の活性の変化を調べたところRac1の活性は7分後に約3倍と有意に上昇したが、Arf6のそれは変化しなかった。以上のことからAβはRac1を制御因子として細胞内に侵入する事が明らかになった。先行する研究においてAβを内在化した細胞には陰性に帯電した物質が高密度に存在することが示唆されていたため、次にタウ蛋白を高発現する培養細胞に陰性電荷を有する2種類の物質を導入し、その後のタウ蛋白の変化を顕微鏡で観察した。どちらの物質の場合にもタウ蛋白の蓄積の一形態である液滴と考えられる構造物が細胞内に観察された。本研究により細胞内に取り込まれたAβが何らかの機序により陰性電荷を増加させタウ蛋白を凝集させる可能性が示唆された。
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Frontiers in Molecular Neuroscience
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10.3389/fnmol.2022.804702