研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の剖検脳を用いた解析ではリン酸化TDP-43タンパクの凝集が嗅内皮質や海馬に認められる。ALSを含む神経変性疾患ではTDP-43などの特定の蛋白質が異常に凝集し、それが神経細胞を伝播して細胞死が連鎖すると考えられている(プリオン仮説)。本研究ではアデノ随伴ウィルス(AAV)を用いてマウス海馬への入力部位である嗅内皮質,内側中隔野にTDP-43を発現させ、海馬へTDP-43が伝播しマウスの記憶障害を来すことを目的とした。 まず緑色蛍光蛋白(GFP)cDNAを組み込んだAAVを嗅内皮質,内側中隔野に注入するとGFPは神経細胞体から神経線維に分布し,海馬(CA1, CA3, 歯状回)に神経線維が投射するのが認められた。続いて正常TDP-43 cDNAと3種類の変異型TDP-43 cDNA(遺伝性ALS患者由来のA315T変異、N末あるいはC末を除去した変異型)を組み込んだ計4種類のAAVを嗅内皮質,内側中隔野に注入した。TDP-43蛋白は正常型は核、点変異型では核と細胞質に分布し神経細胞の変性を認めた。N末あるいはC末を除去した変異型は細胞体から軸索近位部に分布したが、GFPのように投射先までは発現を追うことができず、海馬の細胞にTDP-43が伝播することはなかった。このため、大腸菌でTDP-43蛋白を作成し、マウス海馬に注入した。N末を除去したTDP-43蛋白は凝集体を形成し、神経細胞の変性とミクログリアの集合が認められたが注入部位以外に伝播することはなかった。 本研究では異常TDP-43蛋白が伝播して広がるALSモデルマウスを作成することを目的としたが達成できなかった。パーキンソン病のモデルではαシヌクレイン凝集体をマウスに注入すると広範な伝播が認められるが、ALSにおけるTDP-43蛋白異常については異なった機序の検討が必要と考えられた。
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