研究課題/領域番号 |
19K07981
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
斉藤 史明 帝京大学, 医学部, 教授 (40286993)
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研究分担者 |
真先 敏弘 帝京科学大学, 医学教育センター, 教授 (00585028)
萩原 宏毅 帝京科学大学, 医療科学部, 教授 (80276732)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / エピゲノム編集 / アルツハイマー病 / 筋強直性ジストロフィー / CRISPR/Cas9 |
研究実績の概要 |
これまで原因が不明とされてきた遺伝性筋疾患や神経変性疾患の多くで遺伝子異常やその分子病態が明らかにされてきた。筋強直性ジストロフィーをはじめとするリピート病では、異常伸長したリピート配列が凝集体を形成しこれが細胞に対して毒性を発揮する。またアルツハイマー病においてはアミロイド前駆体タンパク(APP)からアミロイドβ(Aβ)が切り出され毒性を有する可溶性オリゴマーが形成され、これが老人斑として凝集する過程において神経細胞を障害する。これら核酸やペプチドの“凝集病“においてはこの凝集を制御することが疾患治療に向けての明確な分子標的となる。 我々は2019年度と2020年度の当該研究において患者由来の培養細胞を用いて1) CRISPR/Cas9により筋強直性ジストロフィーにおけるCTGリピートの除去ならびにRNA凝集体形成の抑制が可能であること、2) しかしゲノム上の2カ所を切断することで予想外の非特異的切断が生じること、3)そこでゲノム切断を伴わないCRISPR interference法を用いたところより安全にRNA凝集体形成の抑制が可能であることを示した。 そして2021年度は疾患対象をアルツハイマー病に設定し、APPの産生をゲノム編集により抑制する事でAβを低減させることが可能かどうか検討を行った。培養細胞を用いた実験の結果、APPのエクソン1を標的としたゲノム編集によりフレームシフトが生じ、APPのmRNAならびに培養上清中のAβが有意に減少した。さらにAPPのプロモーターを標的としたゲノム編集によっても同様の効果を認めた。このプロモーター領域の破壊はエクソン1のゲノム編集と異なりAPPのアミノ酸配列に変化を生じない事から、将来的な治療への応用にあたってより安全な方法と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの前半の研究から、筋強直性ジストロフィーに対してゲノム切断を伴わない安全なCRISPR interference法によりRNA凝集体形成の抑制が可能であることを示した。そしてこれらの結果を英文雑誌に原著論文として発表することができた。一方後半の研究ではアルツハイマー病の病態に深く関わるAPP遺伝子に対してゲノム編集を行うことで、APPから産生されるAβを有意に減少させることが可能であることを示した。またAPPのmRNAや培養上清中のAβを測定する系も確立することができたので、今後もスムーズな研究の遂行が期待される。一方でナノポアシーケンサーによる変異挿入の検討までは行えなかった。これらのことを総合的に勘案し、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
現在APPのエクソン1やプロモーターを標的としたゲノム編集を行っているが、この方法ではゲノムを切断することによる予期せぬ変異が挿入される可能性を完全には排除できない。そこで第3の方法としてAPPのプロモーター領域に対するエピゲノム編集を試みる。この方法は任意のプロモーター領域のシトシンをメチル化する事で遺伝子発現を抑制するものである。本法はゲノムの切断は伴わないためより安全性の高い手法である。またゲノム編集とエピゲノム編集の結果生じた変異やプロモーター領域のメチル化をナノポアシーケンサーにより検出する。そして次のステップとして、アルツハイマー病のモデルマウスを用いたin vivoの系でこれらゲノム編集、エピゲノム編集の有効性を検証したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度にゲノム編集とエピゲノム編集の結果生じた変異の導入やプロモーター領域のメチル化をナノポアシーケンサーにより解析する予定であった。しかしそこまでは進まなかったため、1年間の期間延長を申請した。次年度この解析に必要な費用に充てる予定である。またマウスの飼育費用もここからまかなう予定である。
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