研究課題
これまで原因が不明とされてきた遺伝性筋疾患や神経変性疾患の多くでその分子病態が明らかにされてきた。筋強直性ジストロフィーをはじめとするリピート病では、異常伸長したリピート配列が凝集体を形成しこれが細胞に対して毒性を発揮する。またアルツハイマー病においてはアミロイド前駆体タンパク(APP)からアミロイドβ(Aβ)が切り出され、これが老人斑として凝集する過程において神経細胞を障害する。我々は2019年度と2020年度の当該研究において患者由来の培養細胞を用いて、1) CRISPR/Cas9により筋強直性ジストロフィーにおけるCTGリピートの除去ならびにRNA凝集体形成の抑制が可能であることを示した。2) しかしゲノム上の2カ所を切断することで予想外の非特異的切断が生じることが判明した。3)そこでゲノムの2本鎖切断を伴わないCRISPR interference法を用いたところより安全にRNA凝集体形成の抑制が可能であることを示した。2021年度と2022年度には疾患対象をアルツハイマー病に設定し、APPの産生をゲノム編集により抑制する事でAβを低減させることが可能かどうか検討を行った。培養細胞を用いた実験の結果、1)APPのエクソン1を標的としたゲノム編集によりフレームシフトが生じ培養上清中のAβが有意に減少した。2)APPのプロモーターを標的としたゲノム編集によっても同様の効果を認めた。3)またAPPのプロモーターに対するエピゲノム編集を試みた。その結果プロモーター領域のメチル化が生じ、APPの発現はゲノム編集と同程度に減少した。プロモーター領域のゲノム編集、エピゲノム編集はAPPのアミノ酸配列に変化を生じず、さらにエピゲノム編集はゲノムの2本鎖切断も惹起しないことから、将来的な治療への応用にあたってより安全な方法と考えられた。
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eLife
巻: 12 ページ: e82811
10.7554/eLife
帝京医学雑誌
巻: 45 ページ: 287-300
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