研究実績の概要 |
CD33はアルツハイマー病(AD)の疾患感受性遺伝子であり、脳ではミクログリアにおいて選択的に発現する。CD33の多型rs12459419はエキソン2の選択的スプライシングに影響する。rs12459419のADに対して保護的なアリルはエキソン2のスキッピングを促進する。全長のCD33はミクログリアの貪食能を抑制するが、エキソン2を欠いたアイソフォームは貪食を促進する。そのため、この多型に限らず、エキソン2のスプライシングに作用する因子はCD33の制御を介してADの病態に影響する可能性がある。本研究では、CD33のスプライシング制御因子としてhnRNPA1, hnRNPA2B1, hnRNPA3を同定した。これらはCD33のスプライシングを冗長に制御しており、エキソン2のスキッピングを促進することが判明した。また、マウスCd33のスプライシングにおいても同ファミリーが制御因子であった。一方、マウスCd33特有のスプライシングパターンが生じることも見出した。 次に、同じくミクログリアの機能に関わるAD関連因子であるTREM2の翻訳制御を検討した。TREM2の5'UTRには上流開始コドン(uAUG)が存在する。各種のTREM2変異体を用いて解析した結果、このuAUGが従来の開始コドンからの翻訳を抑制することを見出した。さらに、uAUGから翻訳される新規TREM2アイソフォームを検出した。また、uAUGの有無により、ストレス存在下におけるTREM2の発現量に差が生じた。さらに、TREM2におけるuAUGの存在はヒトおよび霊長類の一部に限定されるものであった。以上より、ヒトTREM2の新たな発現制御機構が明らかとなった。 本課題で得られた知見は、CD33のスプライシングやTREM2の翻訳を介したミクログリアの機能制御の理解およびその人為的な操作に役立つと考えられる。
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