研究課題/領域番号 |
19K07991
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
春日 健作 新潟大学, 脳研究所, 助教 (70547546)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | CSFバイオマーカー / 進行性核上性麻痺 / PSP / tau / Aβ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、進行性核上性麻痺(PSP)の診断に有用なバイオマーカーを確立させることである。申請者らは、PSP患者の脳脊髄液(CSF)内では、アルツハイマー病関連分子であるtauとβアミロイド(Aβ)が健常高齢者にくらべ低下していることを見出した。 本研究では、なぜPSP患者のCSF内でtauとAβが低下するのかという問いを明らかにするため、CSF内のtauとAβ断片、および細胞種特異的バイオマーカーを解析する。 本年度は、PSPを含む神経疾患コホートから採取したCSFのうち、tauおよびAβの定量をすでに行った124検体をもちいて、可溶性アミロイド前駆体蛋白断片(sAPPβ)およびニューロフィラメント軽鎖(NfL)の定量解析を行った。 sAPPβは、Aβ分子種と相関を示し、なかでもAβ1-38およびAβ1-40と強く相関した(Spearman相関係数0.80および0.83)。一方でAβ1-42との相関は中等度であり(Spearman相関係数0.59)、CSF中におけるAβ1-38およびAβ1-40の低下は脳内でのAβ産生低下あるいは脳内からCSFへの移行障害を反映し、Aβ1-42の低下は脳内の沈着を反映していると考えられた。このことは、PSPにおいてすべてのAβ分子種がCSF内で低下していることは、アルツハイマー病での脳内のAβ沈着とは異なる機序によることを支持する。 従来CSF内のtauは神経障害・神経変性を反映することが報告されていたが、同じく神経障害・神経変性を反映するとされるNfLとの相関は弱く(Spearman相関係数0.36)、CSF tauはアルツハイマー病以外の神経変性疾患では必ずしも神経障害・神経変性を反映していないと考えられた。このことは、神経変性疾患であるPSP患者のCSFにおいてtauが低下している知見を支持する結果であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床脳脊髄液124検体によるバイオマーカー、すなわち可溶性アミロイド前駆体蛋白断片(sAPPβ)およびニューロフィラメント軽鎖(NfL)の定量解析を予定通り行った。さらに、同検体はすでにtau、Aβを解析済であったことから、これらの相関を解析することで、疾患別の各分子のCSF内における挙動を明らかにすることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
in vitroの進行性核上性麻痺モデルを構築し、病的tauによる神経活動依存性Aβ放出への影響を解析する。 具体的には、ヒトAPP安定発現Neuro2a細胞に、ヒト野生型および変異型tauのplasmidをもちいて遺伝子導入する。変異型tauには、PSPと同じく4リピートtauの蓄積を特徴とする家族性タウオパチーで同定されたp.N279Kをもちいる。このダブルトランスフェクション細胞に、予備実験で検討したグルタミン酸による神経活動刺激(0.1 μM, 4時間)を行う。培養液中のAβおよびsAPPβを回収し、ELISAで定量する。また 細胞内のAPP断片をウェスタンブロットにより解析する。Aβの産生と分泌を、野生型tauと変異型tauで比較し、病的tauによるAβ放出への影響を検討する。実験が予定通り進まない場合は、(i)グルタミン酸の濃度・時間の再検討、(ii)ヒトtau遺伝子導入マウス初代培養アストロサイトとの共培養、(iii)Neuro2a細胞をマウス初代培養ニューロンに置換、を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度は脳脊髄液検体のアッセイを中心に研究をすすめたため、in vitroの実験系(培養細胞)に要する費用を次年度へ繰り越した。
|