研究課題
リピート病をはじめとする神経変性疾患の病態解明について、細胞内分子レベルの理解は急速に進んだが、領域あるいは細胞選択性障害の機序が重要な課題として残されている。近年ヒト正常脳の各部位における網羅的解析が精力的に行われその結果が蓄積している。筋強直性ジストロフィー1型はDMPK遺伝子の非翻訳領域におけるCTGリピートの伸長による疾患である。筋疾患とされるが、成人型での性格変化・高次機能障害、先天型での精神発達遅滞、学習障害、自閉症スペクトラム障害(ASD)など、中枢神経症状も呈し、神経変性疾患の要素も有する。これまでの研究の結果、リピートを含んだRNAの核内凝集によりRNA結合タンパクの核内での量的・質的変化が生じ、二次的にさまざまなスプライス異常を生じ、多彩な症状を呈するという、RNA病としての病態理解が非常に進んでいる。本研究ではリピート病の中でも病態研究が進んだ筋強直性ジストロフィー1型を主たる対象とし、剖検脳を用いて脳領域ごとに網羅的解析を行う計画である。初年度に筋強直性ジストロフィー1型および対照神経変性疾患について、剖検脳を用いて脳領域ごとにRNAseqによる網羅的解析を行った。今年度はそのデータ解析を進めたところ、MAPTなど既報のRNAスプライス異常が確認でき、データの信頼性が担保できた。現在、遺伝子発現量の解析および新たなスプライス異常の有無について解析を進めている。また、コロナ禍ではあるが筋強直性ジストロフィー1型患者でのデータ収集を進め、臨床神経心理学的検査・MRI画像計測データの蓄積を行った。脳磁図による神経ネットワーク活動の機能解析との関連についても検討している。
2: おおむね順調に進展している
初年度に行ったRNAseqのデータについて、解析を進めたところ既報告のRNAスプライス異常が確認できたことから、データの信頼性が担保された。遺伝子発現解析および新たなスプライス異常の有無について解析を進めている。また、本研究に関連する病態臨床研究についても論文が刊行できた。
RNAseqデータについて、国内外のバイオインフォマティクスの専門家などの協力も得ながら様々な解析を進める。最終年度にはシングルセル解析などさらなる解析の可能性についても検討をすすめる。また、神経ネットワーク機能の解析についても探索的解析を行いながら、例数を増やすことも検討する。
RNAseqの委託などで多くの経費が必要となる見込みであったが、研究協力者の配慮で初年度および今年度本研究費を使用せずに研究が遂行できた。来年度以降の各種解析のための試薬などに充てる。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
J Am Heart Assoc.
巻: 9 ページ: e015709
10.1161/JAHA.119.015709.