研究課題
アルツハイマー型認知症(AD)に対する根治療法を目指し,申請者らは,ADの病態基盤分子であるAβオリゴマーのみを認識する抗体を独自に開発し,現在日本と欧州で実用化に向けた治験が展開されている.他方で抗体医薬品は,高価で中枢移行性が低いことが弱点である.こうした視点から,本研究はこの発明抗体を起点とし,より医療経済への負担が少なく,中枢移行性に優れた最小フラグメント化抗体による次世代の抗体医薬品の開発を企図した.平成31年度の研究実績として,当研究室で独自に創製した最小フラグメント化抗体4種類の脳内濃度の時間的プロファイルを,まずC57BL/6をコントロールマウスとして, in vivo 高分子マイクロダイアリシス法により明らかにした.投与経路は皮下投与と鼻腔内投与にて検討した.結果として, ① いずれの最小フラグメント抗体とも皮下投与にて血液脳関門(BBB)を通過し,プローブを埋め込んだ脳室,海馬の両者にて検出することができた ② 鼻腔内投与でも同様に海馬,脳室への移行が確認された ③ 時間的プロファイルの比較から,鼻腔内投与では,皮下投与に比べて高用量が脳内に移行し,かつ長時間脳内に留まった などを明らかにした.なお,本年度は当教室で維持しているADモデルマウス(APP-NL-G-F-KI, APP-NL-F-KI )を用いて,通常マウスと同様の動態実験を完了させる予定であったが,後述するとおり当大学の動物センター改装と,コロナウイルス感染拡大などによる影響を受け,実際に施行できたのは予定より少数に留まった.それでもこれら最小フラグメント化抗体は,ADモデルマウスにおいても問題なく脳血管関門を通過することが確認でき,さらにコントロールマウスに比べてより高い脳内濃度を示す傾向があった.
3: やや遅れている
当大学動物センターが老朽化による全面改装のため,2019年11月より使用停止となった.これまで当研究室で自家繁殖により系統維持していた2種類の遺伝子改変マウス(APP-NL-G-F-KI, APP-NL-F-KI )は,一時的に凍結胚として業者に保存を委託した.こうした事情から,12月から動物センターの代替となる新たな飼育室・動物実験室を当研究室で独自に整備することとなり,各種工事の末2020年3月より運用を開始した.ところが,昨今のコロナウイルス 感染拡大の影響から,各種試薬や備品の調達に遅れが生じた.上記事情により,これまで終了していたBL/6マウスによるマイクロダイアリシス実験に続いて予定していた上記2種の遺伝子改変マウスを用いた実験が,当初の予定より遅延している.
上記のごとく,新たに設営した動物飼育室ならびに動物実験室の本格運用が2020年春より可能となったため,2019年度に続いて,Aβ最小フラグメント化抗体の脳内濃度の時間的プロファイルを,マイクロダイアリシス法を用いて決定し,in vivoでの投与量,投与ルートを最適化する.それに基づき,行動実験を通して,ADモデルマウスの記憶障害に対する,これら最小フラグメント化抗体の効果を実証し,同時にこれらの抗体が記憶障害を改善する薬理学的機序の解明に進む予定としている.
3月に購入した物品のもので,見積もり時からの価格変更があった影響で,1737円の余剰が生じたものである.全体としてはほぼ予定通りであった.繰越金は,次年度の物品購入に使用する予定としている.
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Curr Alzheimer Res.
巻: 16(9) ページ: 852-860
10.2174/1567205016666190805155230
Front Neurol.
巻: - ページ: -
10.3389/fneur.2019.00401. eCollection 2019.