研究課題/領域番号 |
19K07999
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
久保田 龍二 鹿児島大学, 総合科学域総合研究学系, 教授 (70336337)
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研究分担者 |
田中 正和 鹿児島大学, 総合科学域総合研究学系, 准教授 (20454613)
松浦 英治 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (30598800)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | HTLV-1 / HAM |
研究実績の概要 |
HAM患者末梢血リンパ球(PBMC)よりCADM1+CD4+リンパ球をソートし、HTLV-1感染細胞を濃縮した。HTLV-1非感染者のCD3+CD4+細胞をソートし(コントロール)、これらの細胞からmRNAを抽出してマイクロアレイを行った。正常コントロール細胞では発現が低く、感染細胞で20倍以上発現亢進している遺伝子群を抽出した。このリストの内、正常細胞の100倍以上の発現亢進があり、細胞の表面分子、代謝、シグナルに関係している分子を抽出した。 これらの分子のうちCREBの活性化につながる細胞内シグナルに関与する酵素分子に注目し、RT-PCRにより感染細胞株/非感染細胞株での発現を確かめたところ、感染細胞株に強く発現していることを確認した。この酵素分子に対する阻害剤物質3つを用いて感染細胞への生存抑制効果を検討した。まずHTLV-1感染細胞株/非感染細胞株をもちいて、これらの阻害物質の添加で短時間培養したところ、HTLV-1感染の有無による特異的抑制効果は認めなかった。次にHTLV-1感染細胞を含有するHAMのPBMC、および正常者のPBMCに添加して生存率を観察したが、5uM以上で一様に生存抑制を認めた。HTLV-1感染細胞はHAMのPBMCの一部のため、阻害物質添加後HTLV-1感染細胞であるCADM1陽性細胞に注目してフローサイトメトリー解析を行った。1例のHAM患者PBMCでは3つの阻害物質のうち1つのみが、1uMで18%の5uMで72%の感染細胞減少を認めた。現在症例を増やし、この阻害物質がHTLV-1感染細胞を特異的に減少させるか検討中である。 もう一つの課題である、CADM1よりもよりHTLV-1感染細胞に特異度および感度の高い表面分子を同定する試みも並行して行っており、2-3の候補分子を絞り検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、HAM患者のHTLV-1感染リンパ球と正常者の非感染細胞を比較することにより感染細胞特異的分子を同定し、その中から治療標的分子を同定することである。現在までの解析で、HAM患者末梢血HTLV-1感染細胞では正常非感染細胞と比べ100倍以上発現亢進している分子が多数あることがわかった。さらにそのうち正常リンパ球では発現が低く、感染細胞で発現亢進し、その生存に重要と思われる候補分子のいくつかを同定した。特に現在注目している酵素分子に対する阻害物質の添加で、患者末梢血リンパ球中の感染細胞が比較的優位に減少することが示された。 またCADM1より特異度の高いHTLV-1感染細胞の表面マーカーについては、いくつか候補分子が絞られた。確認試験のためこれらの候補分子に対する市販の抗体をいくつか試しているが未だ良い抗体は見つかっていない。今後より良い抗体を見つける必要がある。 以上よりおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように阻害物質によるCADM1を指標としたHTLV-1感染細胞の減少が示唆された。しかし、CADM1はHTLV-1感染細胞に特異度は高いが、PBMC中の感染細胞の約6割が陽性とされ感度が低い。そのためまず、現在のフローサイトメトリーによる感染細胞の解析を多数症例サンプルで検討した後に、阻害物質添加培養PBMCでHTLV-1ウイルス量が本当に減少しているか、定量的PCRで検討する予定である。またこの酵素分子が関与するシグナル伝達経路下流の分子に対する阻害物質等が、HTLV-1感染細胞の生存抑制をしないか検討予定である。HTLV-1感染細胞特異的表面分子に関しては、現在のところ適切な抗体が入手できず確認試験が行えないため、抗体作成等を検討する。
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