研究課題
HAM患者末梢血リンパ球(PBMC)よりCADM1+CD4+リンパ球をソートし、HTLV-1感染細胞を濃縮した。HTLV-1非感染者のCD3+CD4+細胞をソートし(コントロール)、これらの細胞からmRNAを抽出してマイクロアレイを行った。正常コントロール細胞では発現が低く、感染細胞で20倍以上発現亢進している遺伝子群を抽出した。このリストの内、正常細胞の100倍以上の発現亢進があり、細胞の表面分子、代謝、シグナルに関係している分子を抽出した。これらの分子のうちCREBの活性化につながる細胞内シグナルに関与する酵素分子に注目し、RT-PCRにより感染細胞株/非感染細胞株で、感染細胞株に強く本分子のmRNAが発現していることを確認した。ウエスタンブロットにてこの分子の蛋白発現が感染細胞に起こっていることを確認した。この酵素分子に対する阻害剤物質3つを用いて感染細胞への生存抑制効果を検討した。まずHTLV-1感染細胞株/非感染細胞株をもちいて、これらの阻害物質の添加で短時間培養したところ、HTLV-1感染の有無による特異的抑制効果は認めなかった。次にHTLV-1感染細胞を含有するHAMのPBMC、および正常者のPBMCに添加して生存率を観察したが、5uM以上で一様に生存抑制を認めた。HTLV-1感染細胞はHAMのPBMCの一部のため、阻害物質添加後HTLV-1感染細胞であるCADM1陽性細胞に注目してフローサイトメトリー解析を行った。1例のHAM患者PBMCでは3つの阻害物質のうち1つのみが、1uMで18%の5uMで72%の感染細胞減少を認めた。さらに9症例のPBMCを用いて解析したところ、有意に1uMで平均20%、5uMで平均40%の感染細胞の減少を認めた。また、CADM1よりもよりHTLV-1感染細胞に特異度および感度の高い表面分子を同定する試みも並行して行っている。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、HAM患者のHTLV-1感染リンパ球と正常者の非感染細胞を比較することにより感染細胞特異的分子を同定し、その中から治療標的分子を同定することである。現在までの解析で、HAM患者末梢血HTLV-1感染細胞では正常非感染細胞と比べ100倍以上発現亢進している分子が多数あることがわかった。さらにそのうち正常リンパ球では発現が低く、感染細胞で発現亢進し、その生存に重要と思われる候補分子のいくつかを同定した。特に本年は現在注目している酵素分子に対する阻害物質の添加で、9例のHAM患者末梢血リンパ球中の感染細胞が濃度依存的に減少し、5uMの濃度で約40%減少することが明らかとなった。またCADM1より特異度の高いHTLV-1感染細胞の表面マーカーについては、いくつか候補分子が絞られた。確認試験のためこれらの候補分子に対する市販の抗体をいくつか試しているが未だ良い抗体は見つかっていない。今後より良い抗体を見つける必要がある。以上よりおおむね順調に進展していると判断した。
上述のようにHAM患者9例のPBMCを用いた実験で、阻害物質によるCADM1を指標としたHTLV-1感染細胞の減少が示された。しかし、CADM1はHTLV-1感染細胞に特異度は高いが、PBMC中の感染細胞の約6割が陽性とされ感度が低い。そこで同培養条件下でHTLV-1ウイルス量の定量的PCRを行ったところ有意な減少を認めなかった。これはHTLV-1感染細胞はPBMC中では約8%と少ないために差が出なかった可能性がある。そのため、感染細胞はほとんどCD4陽性細胞であるため、セルソーターを用いてCD4細胞をエンリッチし、本阻害剤投与でCD4細胞中でウイルス量が減少するか検討予定である。またこの酵素分子が関与するシグナル伝達経路下流の分子に対する阻害物質等が、HTLV-1感染細胞の生存抑制をしないか検討予定である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件)
Journal of Clinical Microbiology
巻: - ページ: -
10.1128/JCM.03230-20
Journal of NeuroVirology
巻: 26 ページ: 404~414
10.1007/s13365-020-00838-z
PLOS Neglected Tropical Diseases
巻: 14 ページ: e0008361
10.1371/journal.pntd.0008361
Retrovirology
巻: 17 ページ: 26
10.1186/s12977-020-00534-0
巻: 26 ページ: 652~663
10.1007/s13365-020-00881-w