研究課題
ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)関連脊髄症(HAM)の主病態は、HTLV-1感染細胞に起因した脊髄の慢性炎症による神経傷害と変性であり、感染細胞の詳細な解析はHAM病態の理解及びその制御に必須である。これまでに申請者はHTLV-1感染細胞による炎症の慢性化機構を明らかにし、さらに、炎症部で生じる神経傷害メカニズムの解明を目指している。HTLV-1感染細胞を主に含むHAM患者CD4+T細胞におけるRepulsive Guidance Molecule a (RGMa)過剰発現の発見より、RGMaが有する神経傷害活性に着目し、本研究では、HTLV-1感染細胞に発現するRGMaを介したHAMの神経細胞傷害機構を究明し、HAM脊髄の神経傷害を標的とした新規治療法開発への基盤構築を目的とする。2019年度は、HAMにおけるRGMa発現の特異性と病態との関連性の検討およびHAM特異的なRGMa発現メカニズムの解明について試みた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、HAM感染細胞特異的なRGMa発現を検討するため、HTLV-1の主な感染細胞であるCD4+T細胞を多数例のHAMおよび健常者のHAM患者末梢血単核球(PBMC)より分離し、CD4+T細胞間におけるRGMa発現量をRealtime RT-PCRにより比較解析した。その結果、HAM患者由来CD4+T細胞特異的なRGMaの発現上昇を確認した。HAMの感染T細胞は活性化し特徴的にHTLV-1機能遺伝子Taxを発現する。HAM感染細胞の特徴に基づき、Jurkat細胞へレンチウイルスを用いてTax遺伝子を導入することにより、RGMa発現誘導を確認した。また、健常者CD4+T細胞の活性化(TCR/CD3とCD28への共刺激)がRGMaの発現を亢進することを確認した。従って、RGMa遺伝子発現はHAMにおけるTax発現およびT細胞活性化依存的に誘導されることが示唆された。
これまでに、PBMCと神経細胞株の共培養系において神経細胞株の細胞死を認め、HAM患者PBMCの神経細胞傷害活性を確認した。よって、今後、HTLV-1依存的なRGMa発現による神経細胞傷害作用の検証するため、以下の解析を行い、HTLV-1によって感染細胞に発現するRGMaの神経細胞傷害作用を示す。(1)神経細胞(細胞株、初代培養)とHAM患者CD4+T細胞(感染細胞)、CD4+細胞除去群(HAM非感染細胞)、または健常者CD4+T細胞(非感染細胞)を各々共培養し、HAM-CD4+T細胞特異的な神経細胞傷害活性を示す。(2)Tax導入CD4+T細胞株と神経細胞との共培養により、Tax発現依存的な神経細胞傷害を証明する。(3)(1)と(2)の培養系におけるRGMaの機能阻害(RGMaの中和抗体処理、またはCD4+T細胞へのRGMa siRNA導入)により、神経細胞の傷害活性が抑制されることを示す。また、上記の実験で決定した、RGMa中和抗体の有効濃度をふまえて、RGMa中和抗体のHAMの免疫病態に対する影響を検討する。HAM患者PBMCは無刺激培養条件下において自発的に増殖し、炎症性サイトカインを産生する性質を有する。これはHAM患者の過剰な免疫応答病態を反映する。この培養系にRGMa中和抗体を作用させ、細胞増殖応答や各種炎症性サイトカイン産生能に対するRGMa抗体の影響を評価し、HAMの治療薬として問題が無いか解析する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 5件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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