研究課題
ヒト認知症患者におけるE/Iバランス破綻と脳機能障害の関係を明らかにしていくことを意識したうえで、本研究では認知症タウ病態がE/Iバランスの破綻を引き起こすメカニズムを、タウ蓄積モデルマウス(rTg4510)を用いて明らかにすることを目指す。rTg4510マウスではシナプスの過興奮の出現が脳萎縮に先行すること(Crimins et al. 2012)、通常のアストロサイトはグルタミン酸とGABAの両方を放出しうるが神経炎症病態の活性化アストロサイトではMAO-Bの発現が著増すること、APP/PS1モデルマウスではMAO-BによるGABA放出が増加し記憶の障害をもたらすこと(Jo et al. 2014)から、下記の作業仮説をたてた。1.タウ病態初期では抑制性プレシナプスの障害がGABA濃度の減少として捉えられる(E/Iバランスが興奮側に傾く)。2.タウ病態進行期では活性化アストロサイトのMAO-Bにより産生されるGABAの放出が,GABA濃度の増加として捉えられる(E/Iバランスが抑制側に傾く)。2019年度は、麻酔下と覚醒下でのMRSを実施し、病態を評価するために適した条件を検討した。実験の結果、脳賦活の評価には覚醒下実験が適していたが、安静時の病態評価に関しては麻酔下でも実施可能であることがわかったため、以後の実験は麻酔下で実施することとした。さらにABB688 PET、フルマゼニルPETの両者を用いて、興奮抑制バランスの障害を評価した。その結果、rTg4510の初期には、フルマゼニルPETでの信号集積低下がrTg4510で有意にみられ、抑制系の障害がより早期から出現することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
2019年度に予定していた実験を実施できており、論文発表の成果にまでつなげることができたため。
今年度は、麻酔下MRSを病初期および進行期のrTg4510マウスを対象に実施する。さらにMAOB PETを実施して、アストロサイトの活性化をイメージングによって評価することと試みる予定である。
2019年に計上していた試薬およびデータストレージの購入に残額が生じたため、2020年度に消耗品等の使用にあてる予定である。
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The Journal of Neuroscience
巻: 40 ページ: 3491~3501
10.1523/JNEUROSCI.2880-19.2020