認知症病態の神経回路の興奮と抑制のバランス(E/Iバランス)破綻の実態は何か?異常タウ蛋白は神経障害の主要因の一つとされるが,その過程にE/Iバランスの破綻がどう関与するのかは不明である.認知症病態では興奮毒性が想定される一方で,活性化アストロサイト由来のγアミノ酪酸(GABA)も病態悪化に関与することが示唆されている.磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)は局所神経回路におけるグルタミン酸(興奮性)・GABA(抑制性)の濃度バランスを非侵襲に計量する唯一の手段であり,ポジトロン断層法(PET)は,異常タウ蛋白量,活性化アストロサイトを非侵襲に評価できる手段である.本研究ではタウ蛋白蓄積型モデルマウス(rTg4510)のMRS・PETイメージングと生化学実験により,認知症タウ病態におけるE/Iバランス破綻機構を明らかにすることで,認知症治療法開発の糸口を探る. 2021年度はrTg4510マウスでメタボローム解析での検証、および遺伝子発現の評価、を予定し、ヒト研究ではタウPETおよびMRSの評価の継続、ならびにMAOB染色を予定していた。メタボローム解析では、アストロサイトの機能変化に由来するrTg4510マウスにおけるエネルギー代謝系の変化を検出しえた。遺伝子発現の評価では、グリアの遺伝子発現変化を正確にとらえるために、ミクログリアとアストロサイトを抽出する系を構築し、それぞれに対してRNAseqを実施し得た。ヒト研究では、追加データの取得とともにMAOBの評価を実施し、認知症病態において早期からMAOBの発現増加を示唆する結果を得た。
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