研究課題/領域番号 |
19K08010
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
小金澤 紀子 群馬大学, 大学院医学系研究科, 助教 (90643114)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超解像顕微鏡 / 樹状突起スパイン / シナプス / ドレブリン |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病は記憶障害に端を発しその後様々な認知機能障害が進行するが、その認知機能障害の程度とシナプス機能不全がよく相関することが報告されている。従って興奮性シナプスを構成する樹状突起スパインに着目したアルツハイマー病におけるシナプス機能不全の実態解明が重要である。樹状突起スパインの形態変化を担っているのがアクチン線維であり、アクチン結合タンパク質であるドレブリンと結合することでスパインは安定化する。一方ドレブリンが少なくなるとアクチン線維の重合・脱重合が促進し、記憶形成・保持に障害を来すと考えられる。アルツハイマー病脳ではドレブリン異常減少が安定なアクチン線維を減らすためシナプス機能不全を起こし、記憶障害の発症につながるのではないかと考えられる。そこで本研究では安定なスパインを構成するドレブリンに着目し、アルツハイマー病のスパインレベルでの病態を明らかにすることを目的としている。 アルツハイマー病のスパインレベルでの詳細な解析を行うためにはin vitroでの解析系を開発することが必至である。本研究では、ヒトのアルツハイマー病脳で見られるドレブリン減少の異常亢進を模すために、既存のアルツハイマー病モデルマウスとドレブリンノックアウトマウスを掛け合わせた新規モデルマウスを作成した。この新規モデルマウスから培養神経細胞を作成し、アルツハイマー病態モデル神経細胞とした。スパインレベルでの病態を明らかにするために、樹状突起スパイン内に局在するタンパク質に着目している。これまでに、2種類のアルツハイマー病モデルマウスにおけるシナプスタンパク質の局在やその動態についての解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルツハイマー病の病態解明のため、これまでに多くのモデル動物が作成されており、こうした動物の脳でもヒトアルツハイマー病脳と同様にドレブリン発現量の減少は報告されている。しかしながら、モデル動物でのドレブリン発現量減少はヒトにおけるそれに比べて弱く、ヒトで見られるドレブリン減少の異常亢進とまでは言えないのが実情である。そこで本研究では既存のアルツハイマー病モデルマウスとドレブリンノックアウトマウスを掛け合わせた新たなモデルマウスを作成した。この新規モデルマウスから作成した胎仔海馬由来培養神経細胞をアルツハイマー病態モデル神経細胞としている。 スパインレベルでの病態を明らかにするために、樹状突起スパイン内に局在するタンパク質に着目している。病態モデル神経細胞におけるそれらの局在性異常の検出を試みるべく、主に超解像顕微鏡を用いて数十ナノメートルの解像度で樹状突起スパイン内におけるタンパク質の局在解析を進めている。コントロール細胞として野生型マウス胎仔海馬由来培養神経細胞を用いており、コントロール細胞における樹状突起スパイン内のドレブリン等シナプスタンパク質の局在解明を進めている。 さらに、ハイスループット解析によるシナプス機能評価法開発にも併せて取り組んでいる。これまでに、ドレブリンに着目したハイスループット解析法の開発に成功しており、その成果を発表した(Koganezawa et al., 2021)。この方法を用いて2種類のアルツハイマー病態モデル神経細胞の解析も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、作成した2種類のアルツハイマー病モデルマウス由来培養神経細胞を用いて、超解像顕微鏡を用いたシナプスタンパク質局在解析、ハイスループット解析法を用いた種々の解析を継続していく。ハイスループット解析法は、本研究の成果としてシナプス機能異常の検出が可能となったことから、スパインにおけるシナプスタンパク質の局在異常検出に加えて、この手法を用いたシナプス機能評価も併せて行う。また、種々のタンパク質発現量解析も生化学的手法により検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により大学への入構規制があり、全体的に実験のペースが落ちてしまい、消耗品の使用頻度が減った。また、学会のオンライン化により予定していた出張費が不要となった。 今年度は引き続き学会はオンライン化の予定だが、今のところ実験の制限は緩和されているため、予定通りの実験を行う為に消耗品購入に充てる。さらに、最近受理された論文のオープンアクセス代にも充てる予定である。
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