研究課題
本研究では、「シナプス分子に対する未知の新規自己抗体が難治性精神症状を形成する」という新しい仮説の検証を目的としている。そのために、精神疾患患者および、健常者の血清サンプルを収集する必要がある。2020年度までに統合失調症患者の血清を約120名、健常者血清を約180名収集した。現在までに新規自己抗体をスクリーニングするcell based assayの実験系で統合失調症の病態に関わり得る自己抗体を4つ発見している。GABAA受容体への自己抗体が統合失調症患者に診られることは昨年度報告したが(17名の統合失調症患者のうち、5名に検出された。60名の健常者には陽性者はいなかった。これらの5名の中には抗体価が10000倍~100000倍の強陽性の患者もいた。これまでに統合失調症患者で報告されたNMDA受容体への抗体価は50-300倍程度であることを考えると、著しく強陽性であることがわかる。これらの中には軽度の脳波異常が検出できるものもいたが、抗体価が10000倍であった患者は脳波上正常であったりと、5名に一致した脳波の所見はなく、また、腫瘍など共通した既往歴も見られなかった。また、髄液中にもGABAA受容体への自己抗体が検出されたことは特筆すべきである。これらの統合失調症における抗GABAA受容体抗体について論文に発表した)、本年度は別の新規の自己抗体を患者血清から精製し、マウス髄液中に投与することで分子間結合の変化、シグナル伝達の変化、シナプス/スパインの変化、行動の変化があるかを解析し、いずれも統合失調症に該当する変化がみられることを見出した。これらを現在論文投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
新規の自己抗体を発見し自己抗体と統合失調症との関連を分子レベルから行動レベルまで示して論文投稿を開始しているため、順調に進展していると言える。
現在投稿中の論文とともに、見出しているのこり3つの新規自己抗体と統合失調症の関係を明らかにしさらに順次論文投稿を行っていく予定である。すなわち、抗原分子のエピトープ部位の同定、分子間結合の阻害作用があるかをpull down assayやビアコアを用いて解析、細胞レベルでは初代培養細胞や脳スライス標本を用いて解析する。すなわち、初代培養神経細胞や脳スライス標本に自己抗体を投与することで、標的分子の局在の変化、下流分子シグナルの変化、スパインの形態変化、神経電気生理学的の変化などを、分子生物学的・形態学的・電気生理学的アプローチにより解析する。また、マウスに自己抗体を投与した病態モデルマウスを作製し、行動実験を行うことで、自己抗体が精神症状の病態の原因になり得ることを示す。本モデル動物は、細胞モデルと同様に、分子病態を明らかにすることにも使用し、さらには免疫反応の抑制・血液脳関門の脆弱性の回復・自己抗体標的分子のシグナル異常回復など、治療法開発に利用できる。これら解析を順次行い、新規の自己抗体と統合失調症の病態との関係を明らかにし、論文・学会発表を行う。また、現在のスクリーニングシステムは有効に働いていると考えられるため、さらに統合失調症以外のサンプル収集も行い、またターゲットの分子のさらに増やして、解析を行う予定である。
消耗品等を節約して研究を行った結果次年度額が生じた。現在論文投稿中であり研究は順調であるが、投稿・論文改訂に関わる研究費が発生するためそれらに使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
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