研究課題
遺伝的・疫学的研究から、統合失調症の病態の一部に自己免疫病態が疑われてきたが、その詳細は不明であった。我々は統合失調症患者223名を解析し、12名にシナプス分子NCAM1に対する自己抗体が血液・髄液中に存在することを見いだした(Shiwaku et al. Cell Rep Med. 2022)。自己抗体が陽性になった患者血清から抗NCAM1自己抗体を含むIgGを精製し、分子間結合に対する影響の解析、またマウス髄腔内にそれを投与して、シグナル伝達異常の解析、スパイン・シナプスの解析、統合失調症様行動が誘発されるかの解析を行った。スパイン・シナプスの解析は2光子顕微鏡を用いて行った。また、患者血清から自己抗体を除去したIgGで、これらの病態が引き起こされなくなることを解析した。その結果、統合失調症の抗NCAM1自己抗体は、抗原分子の分子間結合を阻害すること、シグナル伝達異常でリン酸化の異常がみられること、スパイン・シナプスが減少すること、またマウスで統合失調症様行動(認知機能の低下、プレパルスインヒビションテストの異常)を誘発することを見いだした。NCAM1自己抗体陽性の患者には特記すべき自己免疫疾患や腫瘍など、自己抗体に関連し得る既往歴は見られなかった。HLA領域の変異や、交差反応をし得る感染症の既往などはこれらの自己抗体の産生にかかわるかもしれない。本研究で明らかになった抗NCAM1自己抗体は、統合失調症のサブタイプを明らかにするマーカーかつ、除去するべき治療対象である可能性があり、新しい診断・治療に発展する可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
統合失調症のNCAM1自己抗体を発見し、病態を形成し得ることをマウスを使って示して、論文として発表しているため。
NCAM1自己抗体とは別に新規のシナプス自己抗体を複数見いだしており、それらと統合失調症病態との関係を引き続き解析する。またNCAM1抗体が統合失調症の症状にどの程度関係するかの臨床研究につなげる。
節約をして研究を行った結果、次年度使用額が生じた。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
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