研究課題/領域番号 |
19K08030
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研究機関 | 福井医療大学 |
研究代表者 |
小俣 直人 福井医療大学, 保健医療学部, 教授 (30334832)
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研究分担者 |
清野 泰 福井大学, 高エネルギー医学研究センター, 教授 (50305603)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 酸化ストレス / 社会的孤立 / うつ様行動 / 不安関連行動 / 神経可塑性 |
研究実績の概要 |
生体の発達段階においては、社会的孤立などの劣悪な発育環境が、うつ病に対する脆弱性を引き起こすことが知られている。従って、社会的孤立に暴露される期間が長くなると、精神機能は一層悪影響を受けることが想定される。一方、うつ病をはじめとする気分障害の病態仮説の一つとして、ストレスへの暴露によりシナプス可塑性などが低下して発症するという神経可塑性仮説があるが、社会的孤立もまた、神経可塑性に障害を及ぼすことが報告されている。従って、社会的孤立への暴露期間が長くなると、神経可塑性もまたさらに重篤な障害を受けるのかもしれない。そこで我々は、実験動物に様々な期間の社会的孤立を負荷した際の、うつ様行動や不安関連行動、および神経可塑性に関連するタンパクの発現を評価した。 3週齢のラットに対して社会的孤立(個別飼育)を3週間または8週間負荷した。負荷終了後、うつ様行動の評価として強制水泳試験を、不安関連行動の評価として高架式十字迷路試験を施行した。また、神経可塑性に深く関わるタンパクであるbrain-derived neurotrophic factor (BDNF)およびpost-synaptic density-95 (PSD-95)の発現をwestern blottingにて評価した。 社会的孤立を3週間負荷すると、うつ様行動や不安関連行動が観察された。しかし興味深いことに、社会的孤立の負荷期間を8週間まで延長すると、うつ様行動や不安関連行動は増悪するのではなく、かえって減弱した。BDNFやPSD-95の発現は、社会的孤立を3週間負荷すると、前頭前野や海馬においてある程度低下し、社会的孤立を8週間まで負荷すると更に低下していた。以上より、生活環境の問題によって神経可塑性の障害が進行するのに伴い、うつ状態から躁状態へと移行していく可能性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験動物に様々な期間の社会的孤立を負荷した際の、うつ病・双極性障害関連行動や神経可塑性への影響に関しては、実験がほぼ終了した。また、当初の予定にはなかった恐怖関連行動も評価した。これらのデータをまとめ、論文発表や学会発表も行うことが出来た。 一方、実験室の改修工事が続いているため、使用可能な実験室が制限されている状態が続いており、統合失調症様行動の評価については、2021年度中は実施できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
うつ病・双極性障害関連行動に続き、様々な期間の社会的孤立を負荷した際の統合失調症様行動の評価を行っていく。具体的には、陽性症状様行動の評価としてオープンフィールド試験、陰性症状様行動の評価として社会性行動試験、認知障害様行動の評価として新奇物体認識試験などを施行していく。 また、前年度までに行ってきた酸化ストレスの評価とも併せて得られたデータを吟味し、設定した研究課題を達成していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:実験室の改修工事が続いているため、使用可能な実験室が制限されている状態が続いている。うつ病・双極性障害関連行動は評価することが出来たが、統合失調症様行動の評価については、昨年度中は実施できなかった。
使用計画:うつ病・双極性障害関連行動は評価が終了したため、本年度は統合失調症様行動の評価に移行できる見込みである。陽性症状様行動の評価としてオープンフィールド試験、陰性症状様行動の評価として社会性行動試験、認知障害様行動の評価として新奇物体認識試験などを施行していく。
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