研究課題/領域番号 |
19K08037
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
神林 崇 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 教授 (50323150)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | オレキシン / AQP4抗体 / NMDAR抗体 |
研究実績の概要 |
これまでにナルコレプシーの確定診断を目的として、日本国内から300検体/年が集まって来ている。検体には症候性の過眠症の症例も多く含まれており、これまでに抗AQP4抗体により引き起こされる視神経脊髄炎による疾患概念を構築することができた。抗NMDAR抗体による精神症状に関しても、自己抗体により、精神症状が惹起されることは大きな発見であった。脳炎症状や神経症状の無い精神症状のみの症例においても、検討した160例中6例の抗体陽性例を見いだしている。精神科での有病率の報告はこれまでになされておらず、臨床データを集めて投稿準備中である。認知症に関しては、200検体以上の髄液でのオレキシン測定を行い、Aβとtauの測定も実施している。研究としては、下記の2つのテーマを目指してきた。 [1]自己抗体(抗AQP4, 抗MOG, 抗Ma2抗体)に起因するオレキシン神経の障害による過眠症を検討し、NMDA受容体(R)抗体による精神症状の病態を明らかにしてきた。視床下部が障害されて過眠症状を呈した症例の中でも、限局した病変の形成が抗AQP4, 抗MOG抗体に関連していると考え、より詳細な疾患概念を構築することが可能となった。統合失調症で抗NMDAR抗体の測定を行い、陽性例についてはその症状や経過などについても比較検討を行った。精神疾患にて自己抗体を見いだすことで、確定診断とより至適な治療が可能となった。Melanin-concentrating hormone (MCH)を同時測定することにより、新たな検討も始めた。 [2] アルツハイマー(AD)とレビー小体型認知症(DLBD)におけるオレキシン神経系の症状への関与の検討を行ってきた。認知症とオレキシン値に関しては、ADとDLBDにおいてオレキシン値が乖離した結果を示しているが、各種の認知症とオレキシン値の詳細な検討は喫緊な課題であると考えた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過眠症の約50例において、melanin-concentrating hormone (MCH)の測定を行った。10例の反復性過眠症(KLS)が含まれていたが、そのうちの1症例において、オレキシンと共にMCHの低値例を認めた。一方でオレキシンが低値であるナルコレプシー・タイプ1においては、MCHの低値例を認めなかった。KLSの1例は24時間PSGでの睡眠時間が20時間を超えており過眠症状も重症であったが、甲状腺機能の低下も認めた。また最近報告されたMCHとオレキシンのダブルKOマウス(eLife 2020;9:e54275)と同様の症状(覚醒からの急激な徐波睡眠への移行)が認められた。抗AQP4抗体が陽性の視神経脊髄炎にてもMCHの測定を行った。オレキシンと共にMCHが低値の症例を想定したが、MCHが低下している症例は認めずに、逆に数例で高値となる症例を認めた。どのような機序が働いていたのか、検討を続けている。アルツハイマー(AD)におけるオレキシン神経系の症状への関与の検討では、報告論文が受理された(J Alzheimers Dis. 2020;73(1): 117-123.)。 NMDAR脳炎の精神科にての有病率は未だに報告が無く、明らかにすることが課題となっている。これまでに陽性例の背景となる症例数を検討することは、困難であったが、秋田大と岡山精神医療センターで1年における統合失調症圏の入院数と同医療機関でのNMDAR脳炎の症例数を検討して、有病率を算出した。2つの医療機関において1年間で約1000人の入院患者があり、NMDAR脳炎が疑われた78名でルンバールを行い、そのうちの5名で抗体が陽性であった。その結果入院患者の200人に1名程度(0.5%)のNMDAR抗体が陽性であることを明らかにすることが出来た。
|
今後の研究の推進方策 |
50才代で睡眠検査を行って、レム睡眠が少ない人で10数年後に、認知症の発症が多いと2017年に報告されている。レム睡眠が少ないと認知症になりやすく、増やすことが出来れば、認知症を予防出来る可能性が示唆された。ADで不眠がある場合には、レム睡眠が増えるオレキシン・アンタゴニストとレム睡眠が減るBZ系を投与しての経過観察を引き続き継続して行う。MMSEとHDS-Rの認知機能のテストを継続的に行って、両群で有意な差が見られないかの観察を行う。 またDLBDでREM睡眠関連行動障害(RBD)に対しては、レム睡眠を減らすクロナゼパムに保健適用がある。動物実験ではRBDに有効であるが、現行のオレキシン・アンタゴニストでは十分な効果が得られていない。2020年になり同じくオレキシン・アンタゴニストの新薬(レンボレキサント)が出たので、RBDへの有効性を確認したいと考えている。同薬でRBDを減らすことが可能であれば、DLBDでRBDや不眠の人には投与を行い、クロナゼパムやBZ系の内服薬の人との比較を行う。 MCHについては、過眠症の中でも特にKLSについて検討する症例を増やして、オレキシンとMCHが共に低値の症例を見いだして、共通する症状を抽出する。 ナルコレプシーと精神症状が併存する症例においては、NMDAR抗体を測定して、症例の検討を続ける。NMDAR脳炎の有病率の報告は論文として受理されることを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
測定検体の集まりが遅れて、測定実験が2020年度にずれ込んだため
|