研究課題/領域番号 |
19K08069
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
松田 修二 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (70296721)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / BRI2 / ペプチド |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)は、高齢者でもっとも多い進行性の痴呆であり、高齢化社 会を迎える日本において、その解明は重大な社会貢献となる。アルツハイマー病は、老人斑、神経原線維変化、広範な神経細胞死の3つをその特徴とする。老人斑の主要な構成要素はベータアミロイド(Aβ)であり、Aβは、その前駆体であるアミロイド蛋白前駆体(APP)が代謝されることで切り出されてくる。ADの発症には種々の説があるが、APPの変異でADが発症すること、遺伝性ADの原因遺伝子はPS1とPS2であり、二つともAPPからアミロイドを切り出す酵素の遺伝子であることから、APPの代謝異常が病態の中心であることは間違いがない。 私どもは、APPに結合しAPPの代謝を抑制する、二型の膜貫通蛋白質であるBRI2を見出した。BRI2は細胞レベルでAPPの代謝を抑制し、動物レベルでADのモデルマウスでAPPの代謝を抑制する結果、アミロイドの沈着を抑制する。したがって、BRI2はADの抑制遺伝子であると言える。BRI2に由来するBRI2ペプチドを複数作成するととAPP代謝のβ経路の代謝を阻害するものが得られた。このβ経路を阻害するBRI2ペプチドを海馬の急性スライスに加えると、痴呆モデルマウスの海馬LTP低下を改善する。 アルツハイマー病(AD)の研究の焦点は、患者脳内に蓄積したベータアミロイドが毒性を呈するというアミロイド仮説に基づいているものが大部分である。しかし、本研究は、ADの進行を抑えるBRI2に注目し、他の研究とは別方面からADの病態を解明しようとする。一つはAPPのβ代謝を抑制するBRI2ペプチドを用いて標的蛋白質をPRDX1と同定し、抗酸化作用を持つ酵素PRDX1とAPPの代謝の関連を発見している。もう一つはBRI2に結合する新しい因子としてMHC Class Iを同定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PRDX1は、主にシステイン間のSS結合を還元して解離させる還元酵素である。BRI2のAPPの作用をPRDX1が制御する機構を解明するため、BRI2のシステインに注目した。BRI2は主に二量体と単量体で存在し、少量の多量体がある。ここで、APPに結合しているBRI2を調べると、多量体が中心であることがわかった。また、BRI2のシステインをセリンに変異させて多量体を作らないBRI2を作成してAPPへの作用を調べると、BRI2のAPPへの作用が低下している。ただし、PRDX1はBRI2に直接結合せず、何か他の因子が関係しているのではと考えた。 BRI2に結合する他の因子をHeLa細胞から探索すると、MHC Class I(以下MHC)が同定された。MHCは、すべての有核細胞に存在し抗原提示に働くことがよく知られているが、脳神経細胞のプレシナプスにもポストシナプスにも存在し、視覚野の形成に働くことも知られている。MHCはHLAA、HLAB、HLACの3遺伝子あり、それぞれアレルが千単位の多数あるので、HeLa細胞からMHCの3遺伝子をクローニングすると、BRI2はそのすべてに結合することが確認できた。さらに3遺伝子に共通なα領域におおよそ対応するMHC Class IのC末端断片にもBRI2は結合し、ここは抗原提示には関係のない領域なので、BRI2とMHCの結合は、よく知られた抗原提示以外の問題であることを示唆する。また、MHCの発現はBRI2のAPPに対する作用を抑制した。BRI2がAPPに結合する領域も、BRI2がMHCに結合する領域も同じ細胞外の細胞膜近傍なので、結合が競合していることを示唆している。また、近接した分子のみを標識するproximal ligation assay を行い、BRI2とMHCが近傍にあるもののみを可視化すると、細胞膜に近い部分に粒子状に染まった。
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今後の研究の推進方策 |
細胞生物学的に近接した分子のみを標識するproximal ligation assay を用いると、BRI2-APPの結合体、BRI2の多量体、BRI2とMHCの結合体だけを選択的に標識することができる。また生化学的にMHCとBRI2の結合がPRDX1の増減で影響を受けるのかなどを調べ、以上二つの手法を用いてPRDX1とMHCのBRI2に対する関係を解明する。もし、MHCのBRI2に対する作用がPRDX1の作用と独立していれば独立していることを示す。以上、判明したことをマウスの初代培養神経細胞で確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予測していたよりも消耗品使用が少なかったため。 本年度は消耗品に加えて、生化学実験装置を購入し、初代培養のためのマウス購入、エレクトロポレーター備品などに使用する。
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