研究課題/領域番号 |
19K08073
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
岡田 元宏 三重大学, 医学系研究科, 教授 (10281916)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アストロサイト / 自閉症 / ADHD / てんかん / グルタミン酸 / 認知 |
研究実績の概要 |
陰性症状に有効な非定型抗精神病薬 aripiprazole, clozapineは、NMDA受容体機能阻害に伴う視床皮質路のグルタミン酸伝達機能を、ドパミン受容体ではなく代謝型グルタミン酸受容体機能を介して抑制していた。Lurasidoneも皮質視床グルタミン団伝達を抑制していたが、5-HT7受容体を介した、視床皮質路のグルタミン酸伝達機能の抑制が関与していた。一方、注意欠陥多動性障害に有効なhuanfacineの慢性投与はノルエピネフリン機能を介して、視床皮質路のグルタミン酸伝達機能の抑制が関与していた。 知的障害・自閉症と前頭葉てんかんを共存するautosomal dominant sleep-related hypermotor epilepsy (ADSHE)モデルでも、視床皮質路のグルタミン酸伝達機能の過剰亢進が認められ、視床皮質路の過剰亢進は、状況の変化に対する適切な知覚統合と行動変容能力の低下に関与している可能性が示された。以上の薬理学的、分子生物学的、行動薬理学的解析結果は、従来の視床皮質路のグルタミン酸伝達機能の低下が認知機能障害に関与するとした仮説とは異なり、状況変化を伝達する、視床への感覚入力を統合する機能が、視床グルタミン酸神経の過剰興奮により相対的な消退状態に陥り、結果として認知機能が低下しているように観察される可能性を示したことになる。 また、この視床皮質グルタミン酸入力の効率化に、アストロサイトが参画している可能性も示しうる実験結果も取得した。即ち、グルタミン酸とシスチンの交換輸送を司るsystem Xc-とヘミチャネルの活性化も、視床皮質路の出力制御を制御している可能性があり、今後この関与を詳細に解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
視床皮質路の情報伝達回路の機能性を解析し、1)運動性情報伝達を制御する運動性視床皮質路、2)錐体外路の新たな制御回路である視床性hyperdirect回路、3)認知機能を司る視床皮質認知回路の同定に成功した。また、これら視床を起点とする神経回路の制御機構の差別化にも成功した。 知的障害・自閉症・統合失調症・気分障害・てんかんの各種中枢神経系情報伝達機能障害を基盤とした、中枢神経系機能性疾患の病態に、視床皮質路と視床視床下核路が関与している可能性をしめし、加えて視床グルタミン酸神経細胞への情報伝達の入力と出力に、アストロサイトからの情報伝達が重要な制御を果たしていることから、概ね、当該研究が想定した情報伝達機能制御の背景を明らかに出来た。 しかし、アストロサイトを含めた、三者間情報伝達モデルでも十分に説明できない事象も検出しており、これが、三者間伝達情報伝達の新たな制御基盤を介した現象によるものか否かを解析する必要性おに迫られている。 以上の経過より、概ね、計画した実験成果は習得されたが、本計画の最終目的日精するための新たな課題も明確になり、途中経過としては、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子改変モデル動物の情報伝達機能変異の解析結果から、遺伝情報の変異だけでは十分に説明できない機能障害を同定しており、遺伝子改変モデル動物によるマイクロダイアリーシス、培養アストロサイトを用いたグリア伝達物資遊離実験による制御機構の解析をすすめる。 また、蛋白のトランスロケーションと遺伝子発現制御が、慢性的な情報伝達制解析には重要となる。特に、5-HT7受容体阻害薬であるルラシドンの慢性投与は、5-HT7受容体の脱感作が生じる不可解な結果を得ており、これが、G蛋白共益型受容体のインバースアゴニストとしての機能を観察したものなのか、他の情報伝達機構を介した、脱感作なのかを明らかにする必要がある。これに対しては、蛋白定量法として、近年開発された、キャピラリー電気泳動を応用した蛋白定量法(シンプルウエスタン)を活用し、従来法よりも高感度高速解析を活用する。
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