これまでの我々の一連の研究結果より、マウスを幼若期に2週間隔離飼育すると(生後21日から35日)生後65日以降の成体になったのちに、内側前頭前野第五層において、特定の錐体細胞(過分極時にh-currentを生じることで特徴づけられる)への興奮性シナプス入力が低下し、抑制性シナプス入力が増加し、錐体細胞の興奮性も低下することを示してきた。このことより幼若期の社会的刺激が不十分であると発達後に内側前頭前野第五層の特定の錐体細胞の活動性が低下すると解釈できるが、このh-currentで特徴づけられる錐体細胞の特定のサブタイプが元来脳内の神経回路においてどのような機能的役割を持つのかについてはわかっていない。これまでの他の報告で、このh-currentで特徴づけられる錐体細胞が皮質下の視床、線条体、橋などへその軸索を投射していることがわかっている。そこで今回の研究においては、幼若期の隔離飼育が、どの脳領域に軸索を投射する錐体細胞に対して影響するのかを調べた。幼若期に隔離飼育を行ったあと、視床、線条体、橋に逆行性トレーサーを注入することで、それぞれの錐体細胞を判別し、各錐体細胞から電気生理学的記録を行った。まず、前提として、隔離飼育に関係なく、健常なマウスにおいても軸索の投射先によって分類された錐体細胞の電気生理学的性質が異なることが明らかとなり、さらに隔離飼育することで一つの脳領域における興奮性シナプス伝達において影響が生じることが明らかとなった。
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