研究課題
うつ病モデル動物である反復拘束ストレス(RS7)負荷ラットで、視床下部-下垂体-副腎(HVA)系の内分泌学的検討を行った。RS7で血清コルチコステロン基礎値は有意に増加していた。HVA系の機能亢進が認められるかどうか調べるために、視床下部室傍核(CVN)のCRH mRNAと血清ACTHを測定したが、変化は認められなかった。これより、①HVA系の機能亢進により増加したCRHおよびACTHが、コルチコステロンのネガティブフィードバックにより抑制された可能性と、②HVA系以外の機序により副腎からのコルチコステロン分泌が上昇した可能性を想定した。次に、臨床研究でうつ病との関連が示されているグルココルチコイド受容体の阻害因子であるFKBP5について検討した。RS7の扁桃体でFKBP5タンパク含量は有意に増加しており、これは抗うつ薬であるescitalopram(ESC)の2週間の反復投与で拮抗された。FKBP5が発現している細胞の種類を免疫染色で検討したところ、FKBP5陽性細胞はすべてNueN陽性であったことから、ニューロンであると考えられた。また、FKBP5はグルタミナーゼ陽性細胞とGAD67陽性細胞の両方に局在していた。これより、FKBP5はグルタミン酸作動性ニューロンとGABA作動性ニューロンの両方で発現していると考えられた。さらに、コントロール群と反復拘束ストレス群で扁桃体のFKBP5陽性細胞数を比較したところ、FKBP5/グルタミナーゼ共陽性細胞数が反復拘束ストレス群で有意に増加していた。これより、反復拘束ストレスにより、扁桃体のグルタミン酸作動性ニューロンでFKBP5が増加し、これが反復拘束ストレス負荷によるうつ様行動(強制水泳の無動時間延長)に関連していると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
うつ病モデル動物である反復拘束ストレス(RS7)負荷ラットの視床下部-下垂体-副腎(HVA)系の内分泌学的特性の一端を解明し、さらに臨床研究でうつ病との関連が示されているグルココルチコイド受容体の阻害因子であるFKBP5について検討し、RS7により扁桃体のグルタミン酸作動性ニューロンにおいてFKBP5が増加していることを明らかとした。これは、うつ病の脳内分子生物学的変化の解明につながる端緒となる結果である。
FKBP5は多様な細胞機能に関与するHab分子であり、以下に挙げるうつ病関連分子に作用することが報告されている。①Akt:ラパマイシン(mTOR)経路を制御し、ケタミンの抗うつ作用に関連する。②DNAメチル転移酵素1(DNMT 1):脳由来栄養因子(BDNF)をメチル化することにより、神経新生を制御する。③ Beclin 1:オートファジーの開始分子で、抗うつ薬によるオートファジー促進に関与する。④Casepase 3:プログラム細胞死であるアポトーシス関連分子で、ストレスによる神経細胞リモデリングに関与する。⑤グリコゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β):Wnt/β-カテニン経路を介して神経新生を制御する。生体リズムの形成にも関与する。以上の分子の変化について、うつ病モデル動物である3週齢時の反復電撃(3WFS)負荷ラット、および反復拘束ストレス(RS7)負荷ラットを用いて検討する。
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Neuropsychopharmacology
巻: 44 ページ: 2119-2124
https://doi.org/10.1038/s41386-019-0506-5