研究課題/領域番号 |
19K08081
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
大井 一高 岐阜大学, 医学部附属病院, 准教授 (70629203)
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研究分担者 |
嶋田 貴充 金沢医科大学, 医学部, 助教 (70735349)
西澤 大輔 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, 主席研究員 (80450584)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 第1度非罹患近親者 / 知的機能障害 / ゲノム / 遺伝的共通性 / 民族間差異 |
研究実績の概要 |
統合失調症は、遺伝率80%の多因子遺伝を示し、臨床的・遺伝的に異種性を示す複雑でありふれた精神疾患である。その異種性を軽減するために、診断より疾患の中核症状である知的機能(知能)障害がBiotypeとして注目されている。知能も同様に遺伝素因が関わり、欧米人においては双方に共通する遺伝基盤が示唆されている。本研究の目的は、日本人における3つの知能Biotype: (i) General Cognitive Ability、(ⅱ) Cognitive Declineおよび(ⅲ) 教育歴の全ゲノム関連解析 (GWAS)を行い、欧米人統合失調症や知能の大規模GWASを用いて、Polygenic Risk Score (PRS)解析およびLD Score regression (LDSC)解析を行い、民族間差異を超えて共通する統合失調症と知的機能障害の遺伝的共通性を解明することである。 2019年度は、日本人統合失調症および非罹患近親者と欧米人主要精神疾患間の民族間差異を超えた遺伝要因の共通性をPRS解析にて検討した (Ohi et al. Int J Neuropsychopharmacol 2020)。欧米人精神疾患 (統合失調症、双極症、うつ病、自閉スペクトラム症、注意欠如多動症)のGWASデータを、PRSを算出するためDiscoveryサンプルとして利用した。日本人Targetサンプル335例 (統合失調症患者、非罹患近親者、健常者)におけるPRSを算出した。欧米人統合失調症や双極症と関連するPRSは、日本人健常者よりも統合失調症患者で高値を示し、非罹患近親者のPRSは健常者と統合失調症患者の中間値であった。この結果は、欧米人統合失調症や双極症に起因する遺伝要因は、日本人統合失調症の病態においても寄与していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
統合失調症患者、非罹患第1度近親者および健常者を対象とした研究体制「SNARP: Schizophrenia Non-Affective Relative research Project」よりリクルートした被験者において、知能Biotypeの評価およびジェノタイピングを継続している。これまでにリクルートした対象者について、統合失調症患者や非罹患近親者における病前知能レベルの障害は発症前から存在し、引き続いて起こる知的機能の低下は、統合失調症の発症時期周辺に生じることを示している (Ohi et al. Eur Neuropsychopharmacol 2019)。また、統合失調症患者と非罹患近親者において、知的機能が保たれている群は、教育年数が高いことを示した。 また本研究では、PRS解析およびLDSC解析を用いて、統合失調症と知的機能障害の遺伝的共通性を検討する予定であるが、PRS解析を用いて、欧米人統合失調症や双極症と日本人統合失調症間の遺伝的共通性 (Ohi et al. Int J Neuropsychopharmacol 2020)、欧米人喫煙開始年齢と日本人統合失調症間の遺伝的共通性 (Ohi et al. In submission)、欧米人精神疾患やBiotypeと日本人パニック症間の遺伝的共通性 (Ohi et al. In submission)や、LDSC解析を用いて、精神疾患と皮質下体積間の遺伝的共通性 (Ohi et al. Br J Psychiatry 2020)、不安症と精神疾患やそのBiotype間の遺伝的共通性 (Ohi et al. Psychol Med 2020)、双極症から統合失調症を分類できる遺伝要素と認知機能や海馬体積間の遺伝的共通性 (Ohi et al. In submission)を見出すなど解析手法を確立している。
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今後の研究の推進方策 |
これまで同様に、既に確立された統合失調症患者、非罹患第1度近親者および健常者を対象とした研究体制「SNARP: Schizophrenia Non-Affective Relative research Project」により、効果的、効率的に被験者のリクルートを継続する。解析精度向上のため、できる限り症例数を増やしジェノタイピングを行った上で、最終的な解析を行い、統合失調症と知的機能障害の遺伝的共通性を検討する。 共同研究機関と打ち合わせを継続し、研究成果を日本統合失調症学会、日本生物学的精神学会、日本神経精神薬理学会などの国内学会だけでなく、国外の学会や国際誌においても公表する。さらに、新聞などのマスメディア、インターネットなどのソーシャルメディアにて研究成果を社会・国民に発信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度中に所属機関の異動があり、当該研究継続のための倫理委員会承認や所属変更に時間を要したため、その期間中は研究費を使用することができなかった。そのため、次年度使用額が生じた。その後、倫理委員会の承認を得て、当該研究を継続できる状況となったため、当該年度中にリクルートしたサンプルのジェノタイピングを主な使用目的として次年度使用する予定である。
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