研究実績の概要 |
統合失調症は、遺伝率80%の多因子遺伝を示し、臨床的・遺伝的に異種性を示す複雑でありふれた精神疾患である。その異種性を軽減するために、診断より疾患の中核症状である知的機能(知能)障害がBiotypeとして注目されている。知能も同様に遺伝素因が関わり、欧米人においては双方に共通する遺伝基盤が示唆されている。本研究の目的は、民族間差異を超えて共通する統合失調症と知能障害の遺伝的共通性を解明することである。 日本人統合失調症および非罹患近親者と欧米人精神疾患間の民族間差異を超えた遺伝要因の共通性をポリジェニックリスクスコア(PRS)解析にて検討した。さらに、日本人統合失調症患者と健常者において欧米人統合失調症から双極症を鑑別可能な遺伝因子(統合失調症に特異的な遺伝因子)が知能障害と関連しているかを検討した(Ohi et al. Int J Neuropsychopharmacol 2020,2021)。欧米人精神疾患や統合失調症に特異的な遺伝因子の大規模全ゲノム関連解析(GWAS)データを、PRSを算出するためDiscoveryサンプルとして利用した。日本人Targetサンプル335例(統合失調症患者,非罹患近親者,健常者)からPRSを算出した。 欧米人統合失調症や双極症と関連するPRSは、日本人健常者よりも統合失調症患者で高値を示し、非罹患近親者のPRSは健常者と統合失調症患者の中間値であった。さらに、統合失調症に特異的な遺伝因子に起因するPRSが高いと、統合失調症患者と健常者共に、病前推定知能が低かった。本研究結果より、欧米人統合失調症や双極症に起因する遺伝要因は、日本人統合失調症の病態においても寄与しており、統合失調症から双極症を鑑別可能な遺伝因子は、統合失調症の病態だけでなく、病前知能の低さを介して統合失調症と双極症間の病態の違いに寄与している可能性を示唆している。
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