研究課題/領域番号 |
19K08089
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
伊藤 巧一 弘前大学, 保健学研究科, 教授 (90398579)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 放射線曝露 / 被ばく医療 / マウス臍帯血 / 繊維芽細胞移植 / 造血系サイトカイン / 造血機能回復 |
研究実績の概要 |
今後、日本の原子力政策では原発再稼働と廃炉作業が並行して進行することから、その作業過程で生じうる放射線被ばく事故に対しては万全の医療体制を整えておく必要がある。本研究は、大量放射線曝露によって失われた自己造血機能を回復させるための新たな治療法の開発を目的とする。被ばく医療としては最悪の事態に対応するものである。 通常、大量放射線被ばく事故に対して実施される臍帯血移植や骨髄移植は、それら移植ソースに含まれる造血幹細胞を生着させることで造血機能回復を図るが、申請者は臍帯血に含まれる繊維芽細胞を移植することで放射線曝露個体自身の造血機能回復を促進させることを試みる。放射線被ばく者にとって、自己の造血機能回復は望むべき治療効果である。また、繊維芽細胞は容易に培養増殖可能なことから、供給面で安定した移植ソースになり得る。 マウス臍帯血から培養フラスコ接着性の繊維芽細胞を2~4週間培養で誘導し、その繊維芽細胞の細胞表面マーカーを調べたところ、この細胞が造血幹細胞、間葉系幹細胞、マクロファージならびに樹状細胞など、様々な分化段階にある細胞が有する表面抗原を幅広く発現していた。また、培養により誘導された繊維芽細胞は多種類の造血系サイトカインを産生していることから、放射線曝露個体に移植した場合、曝露個体自身の造血系幹細胞の回復に寄与する可能性が示された。さらに、2種類の増殖因子を添加することで容易にこれら繊維芽細胞が増殖できたことから、移植ソースとしても安定供給可能なものになり得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臍帯血には接着性を有する繊維芽細胞が非常に豊富に含まれていた。解析の結果、これら繊維芽細胞が未分化型且つ分化型の細胞性状を併せ持つ多機能性細胞であること、多種類の造血系サイトカイン産生能(GM-CSF, M-CSF, IL-3, IL-7等)を有していること、さらに容易に増殖できることから、放射線曝露個体自身の造血機能回復に適した移植ソースになり得る可能性が示唆された。現在までの進捗状況は概ね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、実際にこの臍帯血由来繊維芽細胞を放射線曝露個体に移植することで自己造血機能回復が見られるかを検証することに挑む。移植では、組織適合性抗原(MHC)の一致が重要視されるが、放射線曝露マウスに対してMHCが一致および不一致のマウス臍帯血から誘導した繊維芽細胞をそれぞれ移植し、自己造血機能回復の効果を検証する。また、回復した自己造血機能が正常に機能しているかを免疫学的解析により証明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 研究進捗との兼ね合いから令和元年度配分金全額を使用する必要がなくなったため。 (使用計画) 次年度(平成2年度)に物品費として使用する予定である。
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