研究実績の概要 |
現在、原子力発電所は再稼働または廃炉の岐路に立たされているが、いずれにせよその過程で生じうる放射線被ばく事故に対する治療法の確立は重要な課題となる。被ばく事故では被ばく者の造血機能回復が急務となる。これまで申請者は、致死量放射線曝露B6マウスに対する異系BALBおよびC3Hマウス由来の混合臍帯血移植がB6マウス自身の造血機能を回復することで高い救命をもたらすことを見出している。そこで本研究では、この異系混合臍帯血によるB6マウスの自己造血機能回復の原因因子として臍帯血に含まれる繊維芽細胞の関与に着目し、移植ソースとしての有用性を検討した。 初年度は、臍帯血から培養により誘導された繊維芽細胞の形態ならびに細胞表面マーカーを調べた。この繊維芽細胞は培養シャーレに付着し、徐々にシャーレ全体に広がるように増殖した。また、この細胞の増殖過程に特定の細胞増殖因子の添加は必要なく、自発的な増殖によるものであった。フローサイトメトリー解析の結果、この繊維芽細胞は細胞表面にCD29およびCD90の間葉系幹細胞が示すマーカーとMac-1およびF4/80のマクロファージが示すマーカーを同時に発現する細胞であることがわかった。 2年目は、繊維芽細胞のサイトカイン産生について検証した。RT-PCR解析の結果、造血に関わるStem cell factor, IL-6,およびIL-7の産生が認められ、移植後、これら造血系サイトカインが放射線曝露個体自身の造血機能回復に寄与していると考えられる。 最終年度は、BALBおよびC3Hマウス由来臍帯血から誘導した繊維芽細胞を致死量放射線照射B6マウスに混合移植することで救命効果があるか検証した。その結果、放射線照射コントロールB6マウスに比較して移植B6マウスでは自己造血機能回復を伴う救命効果が認められ、被ばく医療における繊維芽細胞移植の有効性が証明された。
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