研究課題/領域番号 |
19K08101
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
戸田 尚宏 愛知県立大学, 情報科学部, 教授 (00227597)
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研究分担者 |
小山 修司 名古屋大学, 脳とこころの研究センター(医), 准教授 (20242878)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | X線CT / 散乱線 / 機械学習 / モンテカルロシミュレーション |
研究実績の概要 |
医療診断において不可欠なものとなっているX線CT装置においては,断層像再構成処理において,撮影時に必ず発生する散乱線を障害の原因となるものとして除去する努力がなされてきた.これに対し,本研究は,その散乱線に有益な情報がある事を指摘しこれを用いる事でX 線CTの再構成精度が向上し,この事により現行のX 線CTの被曝減少の可能性を示す事を目的としている.具体的なアプローチとして,機械学習的写像近似法及びシミュレーション投影近似法と銘打った方法の実装及び比較検討を計画している. 機械学習的写像近似法に関する本年度の成果として昨年度得られた216ボクセル(6×6×6)の対象物体に対する結果を電子情報通信学会の英語分冊(D)に投稿し採録決定となっている.また,対象領域を128×128×128のボクセルに分割した上で,中央の断面のみを推定対象とする条件設定での数値実験が可能である事が分かり,現時点でこの条件においても,散乱線利用の有効性を見出している. 一方,シミュレーション投影近似法は計算機内に再構成されている対象物に仮想的なX線照射をシミュレーションによって行い,得られる仮想的な投影データと,実際の対象物に対する投影データとの誤差が小さくなるように再構成像を逐次反復的に修正していく方法である.昨年度までは単色X線を仮定した数値実験であった所を実際のX線管のスペクトルに近い多色X線とした上で,対象物のボクセル数を2×2×1とし,各ボクセルについて,コンプトン散乱係数及び,光電効果による吸収係数を推定対象とした.これら合計8個の未知パラメータをモンテカルロシミュレーションの繰り返しによる非線形最適化アルゴリズムによって推定した所,直接線のみによる推定に比較して,散乱線を用いた場合の方が高精度に推定できる事が分かった.この成果は電子情報通信学会のMBE研究会にて発表している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績の概要で述べたように電子情報通信学会英語分冊(D)に投稿した論文の査読者の評価においては“such research is rare all over the world so that I judge that the paper has a large originality”という文言があり,編集委員のコメントにおいても“the idea of using scattered X-rays for reconstruction is very interesting”とあった.研究の独自性の高さにおいて第三者の同意が得られた事により今後の研究の進展を後押しする力を得た。また,計算環境の限界を考慮した上で学習データの与え方の検討を行った事により,断層面を画像(128×128)として表示できる可能性を見出した点で実現の可能性が見えてきた.こうした事から,研究は概ね順調に進展していると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
機械学習的写像近似法においては,管電圧や管電流,ビュー数などの撮影条件毎に再構成ネットワークを構築しておく必要がある.特に管電圧は撮影対象によって種々に変化させられるため,これに対応したネットワーク構築が必要である.しかしこのアプローチ方法では条件毎に異なる教師データを作成する必要があり,困難が予想される.これに関しては以下のような考察と方策を考えている. 対象物が同一であっても,管電圧が異なると再構成像が異なる理由は,物質の減弱係数がX線のエネルギーによって異なるためである.この減弱係数のエネルギー特性は物質毎に異なるため,もし各部位でエネルギー減弱特性が分かれば管電圧に依存しない断層像を提供できるばかりでなく,組織同定にも有益な情報を与え得る.この考え方は近年マルチ(デュアル)エネルギー断層撮影と呼ばれており,それが可能な装置も開発が進んでいる.本研究で進める散乱線を利用するX線CTでは直接線検出器に加えて多くの散乱線検出器を備える事になるため,増えた情報量を用いる事でこのマルチエネルギー撮影が可能となると考えている.その場合,異なる条件の場合に異なる断層像を教師データとして与えるのではなく,断層像を構成するボクセル毎にエネルギー減弱係数に関する複数個のパラメータを与えるようにすれば教師データは同一で良い事になる.現時点では,光電効果とコンプトン散乱の係数によるデュアルエネルギー方式を考えているが,各元素の濃度を求める方式へと発展させる事を考えている. また,シミュレーション投影近似法においても同様で,撮影条件に左右されないように各ボクセルで,エネルギー減弱特性に関する複数のパラメータを推定する方式を推し進める.これに関しては本年度既に可能性を見出している.
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた学会の形態が、コロナウィルス感染拡大の影響でオンライン形式となったため、旅費を消化しなかったため次年度使用額が生じた。 次年度、旅費が必要になるか否かは不明であるが、もし再び学会がオンライン開催となる場合には、計算環境をさらに強力なGPU、及びCPUを購入する事で、研究を加速する。
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