研究課題
現在の医療診断で不可欠となっているX線CT検査において,撮影時に必ず発生する散乱線は,断層像再構成上の障害のとなるため,これを除去する努力がなされてきた.これに対し,本研究は,その散乱線に有益な情報がある事を指摘しこれを用いる事でX線CTの再構成精度が向上し,この事により現行のX線CTの被曝減少の可能性を示す事を目的としている.具体的なアプローチとして,機械学習的写像近似法及びシミュレーション投影近似法と銘打った方法の実装及び比較検討を計画している.機械学習的写像近似法に関する本年度の成果として昨年度得られた216ボクセル(6×6×6)の対象物体に対する結果を記した論文が本年2021年8月の電子情報通信学会の英語分冊(D)に掲載された.また,対象領域を128×128×128のボクセルに分割した上で,中央の断面のみを推定対象とする条件設定での数値実験が可能である事が分かり,これを2021年11月に開催された米国の学会IEEEの国際会議(第43回EMBC)において発表している.一方,シミュレーション投影近似法は計算機内に再構成されている対象物に仮想的なX線照射をシミュレーションによって行い,得られる仮想的な投影データと,実際の対象物に対する投影データとの誤差が小さくなるように再構成像を逐次反復的に修正していく方法である.これに関しては単色のX線について,昨年度ある程度の結果を得ているが,エネルギー情報を組み込む点で困難があり,本年度はDual-Energy法を応用する前段階として,通常のDual-Energy法を学習的に構成したネットワークにより実現する方法についても2021年9月に電気・電子・情報関係学会東海支部連合大会において発表している.
2: おおむね順調に進展している
本研究の開始から現在までの進捗として,まず,機械学習的写像近似法によって従来検証されてきた対象物体(画像)のサイズが2×2に留まっていたところを128×128のサイズにまで拡張できた点が挙げられる.しかしながら機械学習的写像近似法においては,計算環境としてGPUを用いており,現時点で入手可能なものでも,上述のサイズの対象領域が限界に近い.現在,これを超えるサイズへの拡大法を検討中である.
散乱線利用の有効性を検証するためには,より現実に近いサイズでのシミュレーションを行う必要があり,上述の限界を超えるために何等かの工夫が必要である.機械学習的写像近似に関しては,左右と上下の散乱線検出器に接続されるネットワーク枝荷重が対称性を持つ可能性があり,学習において同じメモリを参照するようにすれば,GPUの使用メモリを減少させられる筈であると考えている.これを実現するため,ネットワーク学習における枝荷重の共通参照の技術を畳み込みネット(CNN)の考え方を参考に進めていく.また散乱線を利用するDual Energy方式を考えて行く上において,散乱線検出器の存在は,通常のDual Energy方式のようにエネルギーを変化させて2回のX線照射は必要なく1回の照射で必要な情報が得られる可能性があり,この方式の原理的な確認とシミュレーションによる検証を行っていく.さらにコンプトン散乱の性質を利用する方法に関してはモンテカルロシミュレーション上で検証を行う.
予定していた機器で価格の低い物が見つかった事,および研究打ち合わせを対面で行う事を計画していたが,リモート会議で行ったため,その分余剰が生じた.次年度においは,学会や打ち合わせが対面で開催される可能性が高まると考えられるため,その旅費に用いる予定である.
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
IEICE TRANSACTIONS on Information and Systems
巻: E104-D(8) ページ: 1378-1385
10.1587/transinf.2020EDP7241
NAGOYA JOURNAL OF MEDICAL SCIENCE
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