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2019 年度 実施状況報告書

放射線が誘導する免疫賦活化および全身性の抗腫瘍効果の定量的評価と制御機構解明

研究課題

研究課題/領域番号 19K08110
研究機関国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構

研究代表者

下川 卓志  国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 物理工学部, 研究統括(定常) (20608137)

研究分担者 武島 嗣英  国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 重粒子線治療研究部, 主幹研究員(定常) (10360950)
中島 菜花子  国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 重粒子線治療研究部, 研究員(任常) (50402863)
研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワード放射線療法 / 重粒子線 / 免疫療法併用
研究実績の概要

放射線を腫瘍に照射すると免疫原性の高い細胞死が生体内で誘導され、その死細胞が”がんワクチン”のように作用することにより、全身に免疫を介した抗腫瘍効果を波及させること(Abscopal効果の誘導)ができると期待されている。Abscopal効果を確実に誘導できれば、PETやCTなどでの診断が困難な微小転移に対しても治療効果を及ぼすことができるため、局所治療の効果が高い放射線療法と相まって治療成績への影響は大きい。実際の治療では劇的な効果も報告されているが、残念ながらAbscopal効果は稀にしか誘導できていない。そのため、より効果的な誘導方法を求めて、基礎研究や免疫療法との併用による応用研究が世界中で進められているが、Abscopal効果の誘導はモデル間差や個体差が大きく、その詳細なメカニズムは未だ不明な点が多い。これまでの報告では、多くの研究でCD8+T細胞量の変化や細胞死タイプの解析が評価として用いられているが、実際にがん細胞を攻撃できる腫瘍抗原特異的T細胞を直接的には評価できていないといった問題点もある。
我々は、放射線による効果的な抗腫瘍免疫賦活化の誘導とそれによる遠隔腫瘍の制御を目指して研究を進めている。担がんマウスモデルを用いてすでに放射線と免疫療法の併用によりAbscopal効果の誘導に成功しているが、その誘導効率は不十分である。本課題では、腫瘍抗原特異的T細胞に対する定量的な指標などを用いて、腫瘍局所への放射線照射後に誘導される免疫応答を、Abscopal効果の誘導過程の各段階でそれぞれ評価を行う。それによりAbscopal効果誘導の成否とその際の放射線により誘導される生体内での生物応答の違いを検討する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

令和元年度は、炭素イオン線を含む放射線による抗腫瘍免疫賦活化効果をOVA安定発現がん細胞株移植マウスを用いて評価した。下肢の皮下に細胞株を移植し、一週間後に腫瘍局所に対し照射を行った。腫瘍内に浸潤した腫瘍抗原特異的T細胞は、がん細胞移植だけでも若干の上昇が認められたが、放射線の局所照射により有意に上昇し、さらに線量依存的な傾向が認められた。一方で、免疫チェックポイント阻害剤単独では特に変化が認められなかった。このことは放射線照射と免疫チェックポイント阻害剤が抗腫瘍免疫賦活化において異なる作用を持つことを示すものであり、効果的な併用に向けてより詳細な検討が必要である。
がん細胞において照射後に発現が変化する免疫応答関連因子としてPD-L1がすでに報告されている。本課題で使用しているすべての細胞株で同様の検討を行ったところ、炭素イオン線およびX線の照射によりPD-L1とその転写因子IRF1の発現が長期的に亢進することが確認できた。さらに、細胞ごとに異なるが、免疫療法に関わる遺伝子の一過性の発現亢進が認められ、併用療法の治療効果に影響することが示唆された。
なお、本課題の成果の一部は日本分子生物学会およびアイソトープ・放射線研究発表会にて報告を行った。

今後の研究の推進方策

現在、コロナウイルス感染症対策による自宅待機のため、実験を行うことが一切できないが、すでに得られているRNA-seqデータなどの詳細な解析や実施予定の実験の方法の検証を行い、実験再開後に速やかに成果が得られるように準備を進める。
研究再開が可能になり次第、まずは局所への放射線照射後にAbscopal効果が誘導された遠隔腫瘍とされなかった遠隔腫瘍の相違点の解析を中心に進める。すでに初期解析に必要なサンプルは確保できており、免疫染色法およびRNA-seq法により浸潤免疫細胞や誘導されているサイトカインの違いを検証する。
また放射線による抗腫瘍免疫誘導効果については、免疫チェックポイント阻害剤併用による誘導効果への影響を定量的に測定し、評価を行う。特に昨年度に免疫療法に関連する遺伝子の経時的な発現変動が明らかにできており、その影響についても検証を行う。
なお、成果の報告として通常行っている国内外の学会での発表は、学会開催が今年度は危ぶまれるため、論文化など他の方法による成果公開を検討する。

次年度使用額が生じた理由

当初本予算での参加を予定していた学会参加経費(宿泊費、交通費、参加費)が別予算での支払いが可能となり、また2-3月に予定していた実験および打ち合わせがコロナウイルス感染症対策のためキャンセルとなったため。予定していた実験はコロナウイルス感染症対策での在宅勤務が終了し、研究活動再開後に実施予定であり、消耗品購入予算として使用予定である。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2019

すべて 学会発表 (2件)

  • [学会発表] 炭素イオン線照射による免疫チェックポイント関連分子発現誘導の解析2019

    • 著者名/発表者名
      黒澤ふき、謝琳、破入正行、張明栄、藤崎真吾、下川卓志
    • 学会等名
      第56回アイソトープ・放射線研究発表会
  • [学会発表] Expression change of immune checkpoint related molecules in cancer cells after C-ion irradiation2019

    • 著者名/発表者名
      黒澤ふき、謝琳、破入正行、張明栄、藤崎真吾、下川卓志
    • 学会等名
      第42回日本分子生物学会

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公開日: 2021-01-27  

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