研究実績の概要 |
申請者らはこれまでの研究で、PANC-1細胞株では放射線照射後に浸潤細胞の数が増加することを明らかにした。その後の研究で、PANC-1では細胞全体の中に一部、浸潤能を有する細胞集団が存在し、その集団はPANC-1全体の集団と比べ、炭素イオン線に抵抗性である、すなわち、細胞全体の中に「放射線抵抗性浸潤細胞」の集団が存在し、照射後にそれらが選択的に生き残ったために、全体として浸潤細胞の数が上昇していたことが示唆された。では、「放射線抵抗性浸潤細胞」とはどのような細胞なのか。どの細胞株にもある割合で存在するのか。存在するならば、「放射線抵抗性浸潤細胞」で共通する重要因子を見出せないだろうか。これらを明らかにするため、本課題では、① 浸潤細胞の集団が存在する細胞株をスクリーニング・同定し、②それら細胞株全体の中に存在する浸潤細胞の集団を単離する。③単離した浸潤細胞は細胞株全体の集団と比較し、放射線抵抗性か評価する、④抵抗性だった場合、放射線抵抗性浸潤細胞で特徴的に発現が上昇又は低下する遺伝子を見出す、ことを目的とし研究を進めている。初年度(2019年度)は①を遂行すべく、7種類のヒト乳がん由来細胞株(BT474, HCC1937, MCF-7, MDA-MB-231, MDA-MB-468, SK-BR-3, SUM149)を用い、浸潤細胞の集団が存在する細胞株をスクリーニングした。トランスウェル浸潤アッセイ、及び、スフェロイド浸潤アッセイの結果より、7種のうち2種類の細胞株(MDA-MB-468とSUM149)では、細胞株全体の中に浸潤細胞の集団が存在することが明らかとなった。次年度は、これら細胞株から浸潤細胞を単離し、浸潤細胞は細胞株全体の集団と比較して放射線抵抗性か、研究を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では、「放射線抵抗性浸潤細胞」で共通する重要因子を見出すことを目的とし、研究を進めている。2019年度(初年度)は、①浸潤細胞の集団が存在する細胞株をスクリーニングし同定することを目的とし、研究を進めた。まず、7種類のヒト乳がん細胞株を用い、浸潤細胞の集団が存在する細胞株をスクリーニングした。トランスウェル浸潤アッセイの結果より、7種のうち4種類の細胞株(HCC1937, MDA-MB-231, MDA-MB-468, SUM149)で、浸潤する細胞の存在が確認された。しかし、トランスウェル浸潤アッセイでは、全体の集団のうち、どのような細胞が浸潤しているのか、細胞全体が動き出しているのか、もしくは、全体のうち一部の集団のみが浸潤能を有しており動いているのか可視化することができない。そのため、加えてスフェロイド浸潤アッセイを行い、全体の中に特定の浸潤細胞集団が存在するのか確認したところ、HCC1937, MDA-MB-231は、スフェロイドを構成する細胞全体がコラーゲンゲルに広がり浸潤する様子が観察された。すなわち、HCC1937とMDA-MB-231は、どの細胞も浸潤能を有することが明らかとなった。一方で、MDA-MB-468とSUM149では、スフェロイドを構成する細胞集団のうち一部の細胞のみが浸潤する様子が見出された。これらの結果から、MDA-MB-468とSUM149は、細胞株全体の中に浸潤細胞の集団が存在することが明らかとなった。現在は②及び③を遂行すべく、この2種の細胞株から浸潤細胞を単離し、放射線に対し抵抗性か調べている。 2019年度の研究により、目的であった、浸潤細胞の集団が存在する細胞株を2種類(MDA-MB-468とSUM149)を同定することができた。よって、「研究は概ね順調に進展している」とした。
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