炭素線スキャニング治療における呼吸性移動を伴う臓器への治療は、一般に呼気位相のみに同期させた照射をする。患者の呼吸が整わない場合、計画していた時間の約2倍の治療時間を要しており、照射精度の低下を招く可能性がある。本研究では、腫瘍と周囲の臓器との位置関係が変化しても治療可能となる、飛程検証に基づく照射マージンを提唱することによって、治療の高精度化と効率化を目的とした。初年度は、ターゲット(腫瘍)の照射マージンと照射可能な呼吸位相(呼吸同期ゲート)の拡張を検討するために、実際の治療データを解析した。神奈川県立がんセンターにおいて臨床研究申請し承認を受けた上、2016年末より2020年2月末までの呼吸性移動のある臓器(肝、肺、膵)への重粒子線スキャニング治療について、約100症例の治療実績データを収集した。 これらのデータを解析するため、治療中の腫瘍近傍に留置されたマーカの動きと照射ログを同期させ、詳細な解析をするシステムを構築した。これにより治療計画4DCT、或いは治療時のin-room 4DCTに対して、体内深さ毎に治療中に実照射された呼吸位相とそのウェイトを推定し、治療計画装置に情報をフィードバックすることで治療毎の実効線量の推定が可能となった。ただし、治療中や治療終了後に投与線量を評価するためには、1セットのCT画像に線量分布を合算する必要があるが、この手法を確立するまでに至らなかった。本研究は、研究代表者の科研費指定機関退職による資格喪失につき、補助事業廃止となった。しかし、構築した解析システムは、日々の治療毎に呼吸が整わない場合や、腫瘍と周囲の組織との位置関係の変化した場合の治療可否の判断が難しい治療に対し、その場で取得したデータを解析することにより、即時に臨床的判断をする支援ツールとして使用できる可能性があるため、可能な限り開発を進めて行く予定である。
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