研究課題/領域番号 |
19K08133
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研究機関 | 鈴鹿医療科学大学 |
研究代表者 |
藤澤 豊 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 助手 (30511993)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ATSM含有新規アミノ酸 / LAT1 / 悪性腫瘍診断/治療薬開発 |
研究実績の概要 |
悪性腫瘍の診断/治療薬の標的分子として、L-type amino acid transporter 1 (LAT1)が注目を集めており、これを標的とした薬剤開発研究が盛んに行われている。 また、ATSMはCu(II)イオンのキレータとして知られ、64Cu-ATSMは、腫瘍などの低酸素環境下でCuを乖離し腫瘍内に64Cuを蓄積する性質を有することから、悪性腫瘍の診断/治療薬剤として期待されている。 本研究では、LAT1などのアミノ酸輸送体により腫瘍細胞内に取り込まれ、かつ腫瘍治療を可能にする新規放射性薬剤の開発を目的として、ATSM構造をアミノ酸側鎖に導入した新規アミノ酸ATSMaaを考案した。まず、側鎖に4つのメチレン鎖を介してATSMaa構造を持つLys(BT)を合成し、非放射性銅natCuとの複合体natCu-Lys(BT)へと誘導した。また、側鎖サイズやα-アミノ基修飾は腫瘍細胞への取り込みに影響を与えることが予測されるため、メチレン鎖1~3個のATSMaa、およびLys(BT)のα-アミノ基にメチル基を導入した化合物、合計5種のATSMaaを合成した。これらATSMaaはpH 7.4において、logD値-0.04~0.21とほぼ同程度の脂溶性を示した。 次に、natCu-Lys(BT)について、U87MG細胞あるいはMCF-7細胞を用いて、細胞内取り込みにおけるLAT1/LAT2非選択的阻害剤BCHの影響と、取り込みにおけるNa+の影響を検討した。natCu-Lys(BT)は、BCH濃度依存的に取り込みが抑制され、また取り込みはNa+の影響を受けなかった。すなわち、natCu-Lys(BT)の腫瘍細胞への取り込みには、LAT1あるいはLAT2などNa+非依存性輸送体が寄与し、SLC1A, 6A, 38AのようなNa+依存性輸送体の関与が小さいことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R1年度は、予定していた計5種の新規ATSMaaの合成とその非放射性Cu複合体の合成に成功し、また、これら5種化合物の物性あるいは細胞内取り込みを評価するうえで必要な、LC-MS/MSを用いた分析条件を確立した。 5種の化合物のpH7.4における脂溶性評価を行った結果、5種化合物のlogD値は-0.04~0.21とほぼ同程度の脂溶性を示した。次に、マウス血清を用いた血清タンパク結合率を評価したところ、これらATSMaaは54.1~70.3%の血清タンパク結合率であった。この結合率は、これまでに報告されているアミノ酸を基盤とした放射性薬剤と比べ、比較的高いタンパク結合率を有する化合物群であると考えられる。 5種の化合物のうち3種について、MCF-7細胞への取り込みにおけるNa+依存性の評価を終了している。また、様々なアミノ酸共存下における、natCu-Lys(BT)のMCF-7細胞への取り込みへの影響についても評価しており、特にLAT1あるいはLAT2の基質となるアミノ酸共存下においてnatCu-Lys(BT)の強い取り込み阻害が生じていることから、natCu-Lys(BT)がLAT1あるいはLAT2によってMCF-7細胞内に取り込まれていることを示唆する結果を得た。以上の進捗状況から当初予定した計画についておおむね順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
R2およびR3年度の計画として、5種の化合物のうち、MCF-7細胞への取り込みにおけるNa+依存性を評価出来ていない化合物について、引き続き評価を進めていく。また、様々なアミノ酸共存下における化合物の細胞内取り込みへの影響について、引き続き検討し、構造による取り込みへの影響と、取り込みに関与するアミノ酸輸送体の寄与を確認する。 これらの評価により有望と考えられる化合物について、放射性銅64Cuあるいは67Cu標識体を合成し、モデルマウスにおける体内分布評価を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
アミノ酸輸送体基質あるいは阻害剤共存下におけるMCF-7細胞への取り込み実験を行うにあたり、一部の基質あるいは阻害剤について溶解度等の物性情報が極めて少なく、本評価系に対応しうる溶液調製を行うために追加検証を行いながら実験を行う必要があった。そのため、予定数量を超えて購入する必要が生じ、また、これらが輸入品で小容量かつ高額であったことから、当初計上した必要物品費を上回ることになった。その補填として、その他の使用目的に計上していた額を物品費として使用した結果、わずかに未使用が発生した。 また、実験の効率化のため別施設における実験日数を削減したこと、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、予定していた学会が中止になったことにより、旅費として計上していた費用が使用できなかった。 おおむね以上2点の理由より次年度使用額が生じ、これは次年度の研究充実のための物品費にあてる予定である。
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