本研究は、放射光単色X線による微小血管造影システムを用いた対象臓器・対象疾患に関してさらに高精度の評価を実施するために、より最適な物理的特性を持つX線光学素子に関する知見を得ることが目的である。今年度は、昨年度に引き続いて、個々の研究目的に対して十分な単色X線強度と広いX線照射野を持つ放射光微小血管造影システム開発に関する基礎的検討を縦長・縦偏光放射光が得られる放射光実験施設の実験ステーションにて最新のX線検出器(CMOS検出器)を用いて実施した。縦長・縦偏光放射光を利用することでX線光学素子、試料、検出器を同一平面上に設置できる利点がある。従来から使用してきたX線光学素子を複数枚用いるイメージングシステムに対して放射光白色X線と表面をメカノケミカル研磨した非対称X線光学素子1枚(シリコン結晶)を利用するイメージングシステムに変更して、得られる単色X線画像に関する物理的観点、医学的観点からの評価を実施した。このために放射光実験ステーションに散乱X線を防ぐための鉛板で囲んだシールドボックス内に水冷機構を備える分光光学系を設置した。放射光利用実験により、得られる単色X線画像の空間分解能、照射面積、X線強度を定量的に評価するとともに小動物を用いて心臓、肺臓、腎臓などの血管系機序や病態に関する評価が可能であることを実証できた。またさらに、より大きな積分反射強度を持つ単色X線を得ることができる結晶表面をSiC塗粒で研磨した非対称X線光学素子1枚(シリコン結晶)を利用することに関して、得られる画像の空間分解能、照射面積、X線強度を定量的に評価した。表面研磨した結晶を用いる場合はX線画像の空間分解能劣化が生じるものの単色X線強度を一桁程度向上させることができるので、表面状態の異なる非対称X線光学素子を研究目的に応じて利用することに関する具体的な知見を得ることができた。
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