研究課題/領域番号 |
19K08140
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
Nam JinMin 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (60414132)
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研究分担者 |
小野寺 康仁 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (90435561)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 放射線 / 小胞輸送 / パラクライン |
研究実績の概要 |
放射線療法はがん治療に広く用いられているが、治療効果の向上のためには、生命科学的理解が必要不可欠である。本研究では、放射線刺激によりがん細胞から分泌されるエクソソームを制御する小胞輸送メカニズムの解明を目的としている。さらに、エクソソームを介した細胞間コミュニケーションに関わる分子メカニズムにもアプローチしている。 本年度は、悪性度の高い膠芽腫細胞U87MGを用いて、前年度に特定したRab27に関する詳細な分子メカニズムの解析を進めた。細胞内小胞輸送を制御するRabファミリー低分子量 Gタンパク質に着目して解析をおこなったところ分泌経路に関与するRab27bの発現が放射線照射によって特異的に亢進することを発見した。Rab27bは、近年、エキソソームの分泌調節に関わる分子として注目されている。Rab27bの発現を抑制した細胞株を作成し放射線抵抗性への効果を確認したところ、放射線照射後の細胞死が増加し、細胞増殖が抑制された。また、マウスモデルを用いて脳腫瘍移植及びin vivoイメージングの実験を行った。マウス脳への膠芽腫細胞の移植実験において、Rab27bの抑制と放射線照射を組み合わせることにより、脳腫瘍の成長が抑制され、マウスの生存期間が延長された。これらのことから、Rab27bの発現を抑制することによって、放射線による治療の効果を高めることが示唆された。Rab27bのタンパク質発現と相関し、悪性度が比較的低い脳腫瘍細胞株に比べて悪性度の高い膠芽腫細胞株において、細胞増殖因子であるエピレギュリンの発現と分泌も共に亢進していることが分かった。放射線照射による膠芽腫からのエピレギュリンの分泌はパラクライン効果によって周辺のがん細胞の増殖を促進すること見出し、さらに詳細な解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の2年目に目的としていた分泌因子の特定が順調に進み、周辺細胞への影響(パラクライン効果)を調べる実験系まで構築することができた。さらに、研究計画当初は、最終年度に予定していた、脳腫瘍移植のin vivoイメージングを立ち上げ、特定した分子Rab27bと放射線の相乗効果を検証できた。これらの研究結果をまとめて論文として発表し、最終年度に向けて、さらに詳細な解析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度には、放射線照射後、Rab27bの発現制御に関わる詳細な分子メカニズムを解析する。特に放射線照射後に、Rab27を介して分泌される分泌因子が周辺細胞に与える影響を、様々な細胞機能を検証しながら解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、実験の条件検討が予定よりも順調に進み、使用する消耗品を減らすことができたため、残額が生じた。今年度の残額は、次年度に消耗品(抗体類やプラスチック製品)、また、研究発表のための論文投稿費と学会への旅費を補充することで役立てる。
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