研究課題/領域番号 |
19K08141
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
細川 洋一郎 弘前大学, 保健学研究科, 教授 (70173599)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヒアルロン酸 / 癌幹細胞 / 放射線治療 |
研究実績の概要 |
2020年までの研究成果によると、放射線抵抗性を獲得した口腔扁平上皮癌細胞株(HSC2-RとHSC3-R)のHAS3(ヒアルロン酸合成酵素の一種)のmRNA発現が、親細胞株(HSC2とHSC3)よりも高かった。また、ヒアルロン酸合成阻害剤である4-methylumbelliferoneを添加すると、HAS3の発現が抑制され、細胞生存率が低下したことから、ヒアルロン酸阻害剤に癌細胞に対する放射線増感効果することが示唆された。 そこで2021年度は、放射線抵抗性細胞株(HSC2-RとHSC3-R)に対してHAS3のsiRNAを導入し、一過性のノックダウンを行った。siRNAによるHAS3発現抑制効果は、ウェスタンブロットによって確認した。コロニー形成アッセイによる生存率評価では、HAS3ノックダウン下を行うことで、X線照射による殺傷効果が増強されることが明らかになった。この結果から4-methylumbelliferoneの放射線増感効果はHAS3発現抑制が関連していると考えられる。 また、4-MU投与によってヒアルロン酸受容体であるCD44発現が抑制され、癌細胞内のROS産生が増強された。このことはHAS3発現抑制によっても同様の効果が得られると予想できる。CD44は癌幹細胞マーカーとして知られる一方で、シスチントランスポーターであるxCTを安定化させることで抗酸化活性を促進している。したがって、HAS3発現抑制はCD44を介した抗酸化活性因子に作用し、ROS産生を促進することによって放射線増感効果をもたらすと考えられる。これまでに明らかになった成果は、第58回日本放射線腫瘍学会生物部会学術大会・第49回放射線による制癌シンポジウムにて公表した
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HAS3のsiRNA導入の検討が終了し、おおむね順調に進展している。しかし、ヒアルロン酸関連のシグナル伝達や、発生する活性酸素について研究を重ね、今後さらに詳細な放射線増感効果のメカニズムは明らかにする所存である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により、HAS3の発現抑制が、放射線抵抗性細胞株に対するX線照射の殺傷効果が増強されたため、このメカニズムの詳細を検討する。4-MUの放射線増感効果については、癌細胞内酸化ストレスレベルの上昇が関連していることが明らかになっている。また、放射線抵抗性細胞株は非抵抗性細胞株と比べて癌幹細胞の含有量が多いことが示唆されている。これらの結果を踏まえて、HAS3と抗酸化能や癌幹細胞特性との関連を詳細に検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染対策のため、予定していた学会による情報収集ならびに国際学会の発表が不可能になったため、次年度使用額が発生した。本年度はさらに、癌幹細胞に対するヒアルロン酸阻害のシグナル伝達(HAS2,HAS3)について検討し、その阻害過程を検証し論文を発表する予定である。
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