本研究では,アミロイドβタンパク質やタウタンパク質など,脳の神経活動に伴って生じる老廃物が脳脊髄液循環系によって排泄される機能(グリンファティックシステム)を人間において解明して臨床利用するために,磁気共鳴イメージング(MRI)装置を使用して画像解析する手法「グリンファティックMRI」を開発・確立することを目的としている.令和4年度は,グリンファティックMRI手法の中で実用性が高かった脳内水分子揺動解析を髄膜腫症例において適用し,髄膜腫のサブタイプ分類の対比,腫瘍本体以外の組織における髄膜腫の大きさや発生部位の関連並びに健常ボランティアとの比較を進めた.実際には,以下の手順で解析を実施した. 1.髄膜腫症例と健常ボランティアにおいて,b値を0,200,1000 s/mm2に設定した心電図同期single-shot diffusion echo-planar imagingシーケンスを使用し,bulk motionの影響を最小化した条件で腫瘍断面を撮像. 2.取得したb値が0と1000 s/mm2の拡散強調像から各心時相(約20時相)のADC画像を算出し,心周期において各ADC画像の最大値と最小値の差をピクセルごとに求めてΔADC画像を作成. 3.b値が0と200 s/mm2の拡散強調像から各心時相(約20時相)のADC画像を算出し,心周期において各ADC画像の最大値をピクセルごとに求めて脳血流成分画像(ADCp)を作成. 4.ΔADC画像をADCp画像で除することによって,血流を自己補正した血流に依存しないADC(Self-corrected ΔADC)を算出. 十分な対象症例数において解析が完了していないものの,髄膜腫における脳内水分子揺動解析は従来のintravoxel incoherent motionを使用した拡散解析以上の生体情報を取得できる可能性が低かった.
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