研究課題/領域番号 |
19K08150
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
小橋川 新子 (菓子野新子) 奈良県立医科大学, 医学部, 研究員 (70637628)
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研究分担者 |
菓子野 元郎 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (00437287)
森 英一朗 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (70803659)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 遅発性活性酸素種 / ミトコンドリア / 放射線 / 細胞老化 / アスコルビン酸誘導体 / SASP |
研究実績の概要 |
本研究ではまず放射線照射による遅発性活性酸素種を抑制し得る抗酸化剤を検討する計画であった。これには抗酸化剤であるアスコルビン酸誘導体(AA-2G)が良いことがわかった。AA-2Gは長期的処理が可能であることから、AA-2Gが最も有効であることが考えられた。 AA-2G処理によって遅発性活性酸素種を抑制した結果、ヒト正常線維芽細胞(BJ-hTERT細胞)においては放射線生存率が回復したのに対し、癌細胞(RKO細胞、HT1080細胞、MiaPaca2細胞)においては回復しなかった。正常細胞と異なり、癌細胞においては照射によって細胞老化が誘導されないという違いがあることから、遅発性活性酸素種は細胞老化誘導に関与していることが推測された。そこで次に、細胞老化の誘導頻度を調べるために、老化関連β-ガラクトシダーゼ活性、及びBrdUの取り込み頻度について調べた。その結果、予測した通り、照射によってBJ-hTERT細胞においてはβ-ガラクトシダーゼ活性が増加し、BrdUの取り込み頻度が減少することがわかった。更に、AA-2G処理によって遅発性活性酸素種を抑制すると、照射によるβ-ガラクトシダーゼ活性の増加が優位に緩和されることがわかった。また、BrdU取り込み細胞の頻度も処理していない細胞に比べて優位に増加することがわかった。このことから遅発性活性酸素種は細胞老化の誘導に関与していることが示唆された。しかしながら、遅発性活性酸素種が老化関連炎症性物質(SASP因子)の発現に関与するか調べた結果、IL-1a、IL-6、IL-8のSASP因子の発現はAA-2G処理によって抑制されなかった。また、細胞老化が誘導されなかった癌細胞においてもこれらのSASP因子の発現が照射によって優位に増加したことから、照射によるSASP因子の発現増加は細胞老化に依存しない経路であることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度では遅発性活性酸素種を抑制し得る抗酸化剤を検討し、放射線照射による遅発性活性酸素種が正常細胞とがん細胞の生存及び細胞老化に影響を及ぼすのか比較検討することを予定していた。当初の計画通り、正常細胞とがん細胞とで放射線照射後の細胞老化誘導に違いがあることを明らかにし、さらにその原因となるタンパク質の発現に違いがあることを明らかに できた。また、 SASP因子の発現については放射線照射によって遅発的に増加することが明らかとなった。そしてこのSASP因子の発現機構は遅発性活性酸素種や細胞老化とは別の機構によるものであることが示唆された。 さらに、DNA損傷応答タンパク質の一つであり、老化誘導においても重要なATMタンパク質の活性化の維持に遅発性活性酸素種が必要であることがウェスタンブロッットの結果より明らかにできた。 このように研究を遂行できており、論文発表できる段階まで進めたことから、進展していると言えると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、これまで細胞レベルで得られた結果について論文発表を行う。 そして、前述のとおり、正常細胞においては遅発性活性酸素種による細胞老化が生じるが、がん細胞では細胞老化が生じないため、遅発性活性酸素の抑制によって、照射後の細胞増殖に影響が出ない。がん細胞と正常細胞が混在するがん組織の照射においては、アスコルビン酸誘導体(AA-2G)による遅発性活性酸素の除去は、相対的にがん細胞よりも正常細胞において大きな防護効果を発揮する可能性が高い。この検証を動物レベル(マウス)で調べる。 「遅発性活性酸素を抑制するがん細胞特異的細胞外因子」を抑制する手法、及びAA-2Gを処理する手法(それぞれの手法と両者を組み合わせた手法)を動物レベルで検証する。放射線照射によるマウスにおけるがん増殖抑制、及び正常組織の障害の保護効果について検証する。以下の実験を行う。 ①ヌードマウスにがん細胞を移植し、がん細胞の増殖率を腫瘍の体積により測定する。 ②放射線照射の有無、細胞外因子の抑制の有無、もしくはAA-2G投与の有無それぞれの群に分け、各群におけるがん細胞の増殖抑制効果を調べる。 ③放射線照射の有無、細胞外因子の抑制の有無、もしくはアスコルビン酸誘導体投与の有無それぞれの群に分け、各群における正常組織への影響を比較する。具体的には皮膚の紅班の評価、及び正常組織の凍結切片により、細胞老化関連ガラクトシダーゼ活性の測定、老化関連タンパク質の発現、細胞のDNA二本鎖切断数について53BP1フォーカス形成を用いて比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COV-19感染拡大の影響で通常の年よりも学会等に参加しなかった。また参加した学会もWeb開催であったため旅費がかからなかった。
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