研究課題/領域番号 |
19K08151
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高橋 豊 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座講師 (40353461)
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研究分担者 |
小川 和彦 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (40253984)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 温熱療法 / 免疫チェックポイント阻害剤 / 抗腫瘍免疫 |
研究実績の概要 |
温熱療法は放射線治療、または化学療法と併用することにより強い増感効果があることが従前より知られており、1990年には放射線併用時に保健収載、1996年には単独療法としても保健収載となった。最近、加温の精度が向上し、放射線併用時に浅部あるいは深部の腫瘍に対し優れた局所効果が得られることが報告され、再度注目を浴びている。さらに免疫賦活効果があることを示唆する報告もあり、私たちも予備実験で同様の結果を得ている(図1)。しかし、動物実験や実臨床では、温熱療法が遠隔転移の制御にまでつながることを示した報告は極めて少ない。 近年、免疫チェックポイント阻害剤の登場により、遠隔転移を有する症例に対しても画期的な効果が得られているが、奏効率は限定的である。本研究は温熱療法の局所増感効果および免疫賦活効果に再度着目し、免疫チェックポイント阻害剤との併用効果を局所および遠隔転移を制御できる新たな治療法の開発を試みることを目的とする。 今年度は乳癌マウスモデルを使用し、マウスの両脚に乳がん細胞を移植し、無治療群 (No Tx)、片方だけの腫瘍に42.5℃20分の加温(HT)、免疫チェックポイント阻害剤の1つである抗CTLA-4抗体のみを投与する群(C4)、併用群 (HT+C4)の群で、加温腫瘍および非加温腫瘍の増殖能の検討を行った。その結果、HT+C4群のみで加温腫瘍に対し有意な増殖遅延効果が得られた。興味深いことに、非加温腫瘍でもC4群に比べ奏効率が有意に高かった。また、遠隔転移も抑制され、生存も延長した。併用群では加温腫瘍、非加温腫瘍ともに、腫瘍内免疫環境が抗腫瘍免疫に有利な状況に変化していることが確認された。さらに、腫瘍免疫に中心的な役割を果たすT細胞の末梢組織への移入を阻害する薬剤を投与したところ、HT+C4群の非加温腫瘍の抗腫瘍効果は消失し、免疫介在性の反応であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ここまでの結果を論文に投稿する準備が整った。コロナウィルスによる非常事態宣言に伴う実験の制限などにより、X線との併用効果にまで進めていないが、制限も緩和されたため、遅れは取り返せる状況にあり、概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は乳癌マウスモデルを使用し、マウスの両脚に乳がん細胞を移植し、無治療群 (No Tx)、片方だけの腫瘍に42.5℃20分の加温(HT)、免疫チェックポイント阻害剤の1つである抗CTLA-4抗体のみを投与する群(C4)、併用群 (HT+C4)の群で、加温腫瘍および非加温腫瘍の増殖能の検討を行い、HT+C4群のみで加温腫瘍のみならず非加温腫瘍でもC4群に比べ奏効率が有意に高く、遠隔転移の抑制効果、生存の延長が得られ、した。併用群では加温腫瘍、非加温腫瘍ともに、腫瘍内免疫環境が抗腫瘍免疫に有利な状況に変化していることが確認された。しかし、今回は相対的に腫瘍が小さい条件下であり、実臨床で温熱療法の適応となりえる比較的大きな腫瘍に対する効果は不明である。温熱療法単独でこのような大きな腫瘍に対する抗腫瘍効果は見込めないことが前年度の研究結果から分かっており、今後は放射線と温熱、免疫チェックポイント阻害剤の3者併用療法の効果を検討する。 それに先立ち、まずは細胞実験で、放射線単独、温熱単独、放射線+温熱で免疫に関する因子を探索し、それらがオーバーラップしているか、あるいは独立したメカニズムが働いているかの検討を行い、その後に動物実験へ進む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
温熱装置の温度管理などに時間を有したことや、予備実験を綿密に行い動物実験は予備実験を綿密に行たっため当初の予定よりマウス数を少なくできるなどの実験の高率化が図れたことと、新型コロナウィルスの影響等により、年度末の実験ができなかったため。
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