研究課題/領域番号 |
19K08161
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
堀 正明 順天堂大学, 医学部, 客員准教授 (40334867)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脊髄 / MRI / 定量分析 / 髄鞘 / 軸索 |
研究実績の概要 |
脊髄脊椎の撮像手法の至適化と解析法の検討、試行を行った。過去の研究成果から、脊髄の軸索のマッピングとしては形態的、解剖学的な特殊性を考慮したMRI画像の特質を考慮したうえで、脳科学で広く用いられるsingle-shot EPI法ではなく、過去の研究にも用いたSimultaneous Multi-Slice(SMS) Readout Segmentation of Long Variable Echo-trains(RESOLVE)EPIを用いて、撮像条件を至適化し、実際に撮像を行った。さらに、髄鞘のマッピングとしては、磁化率移動を用いた撮像方法を主として候補としているが、MRI緩和測定などの他の撮像手法も考慮として、その妥当性の比較や実際のテスト撮像を行った。また、いずれのデータも歪み補正や後処理としての定量的マップの構築が必要であるが、それに関しては先行報告や論文を参照の上、脳科学で用いられているような数理計算の手法を本研究向けに構築を行った。 また、実際に取得した正常および疾患群のMRIデータより、軸索および髄鞘の定量的変化を脊髄損傷などの患者群において検討したが、予想よりデータ収集がすすまず、学会発表には至らなかった。 また研究当初より導入されている、より客観性の高い定量的な脊髄MRI画像の解析手法である、spinal cord toolboxを用いて、脊髄における各種MRI画像の定量値に関して、正常アトラスをベースとする解析の試行を行い、その結果の一部を、邦文誌にて解説した。ただし、解析途中でソフトウエアに起因すると思われるエラーがみられ、本ソフトウェアの開発者であるカナダ・モントリオール工科大学のJulien先生と協議、修正中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
脊髄の解析手法として、MRIを用いた複数の定量化マッピングが可能となり、その撮像および解析における条件の至適化や、正常値における妥当性の検討が行われているが、脊髄という部位の特殊性でそれぞれの手法における比較検討に若干時間がかかっている。 本研究の一環として、頚椎症性脊髄症の患者群の過去のデータを用いて、MRI解析結果から得られた定量値が、臨書的バイオマーカーとして有用であるかどうかの検討結果は英文論文として報告することが可能であった(Iwama T, Hori M, et al. Utility and validity of neurite orientation dispersion and density imaging with diffusion tensor imaging to quantify the severity of cervical spondylotic myelopathy and assess postoperative neurological recovery. Spine J. 2020 Mar;20(3):417-425.)。従って、解析手法の妥当性はある程度担保できていると予想される。しかしながら、最も良いと思われる撮像手法を用いても常に安定した、解析目的に良好な画質とは言い難くその定量値のばらつきを症例によっては認めうるので別の撮像方法も試験的に検討する必要性がある。 また、脊髄の疾患群における臨床におけるデータに関しては、当初予想した疾患群におけるデータの収集は、やや滞っている。そのため、他の疾患(筋萎縮性側索硬化症など)も本研究における検討対象に追加することを検討し、準備を進めているが、必要なプロセス(倫理委員会での承認等)において時間がかかっている。従って、さらに引き続きデータ収集を加速させる必要であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の遂行に関しては、昨年度と基本的な方針に大きな変更はなく、引き続き脊椎脊髄における定量的なMRIデータの収集を、脊髄内の髄鞘や軸索の変化を定量できるような様々な撮像方法にて、健常ボランティアおよび疾患群にて推進する。研究計画当初と最も大きく異なる点は、想定した対象疾患群(主に脳梗塞や脳出血等の血管性病変、脳腫瘍、脱髄性疾患等)の解析のみでは本研究の目的するデータとして不十分であり、特に進行性の変性疾患(筋萎縮性側索硬化症など)も研究対象として追加することになった点である。 また、MRIの撮像シーケンスや得られた画像データの解析技術は日進月歩であり、実際研究計画当初の候補とされた手法の他に、新たな複数の撮像手法や解析手法が可能となってきている。その有用性や独自性を考慮すると、場合によっては研究計画に記された現状の手法とは異なる手法でのデータ収集が必要となる場合があると予想される。ただし、本研究は基本的に臨床で実現可能なMRI撮像時間(データ取得時間)内で、その有効性、妥当性を検討した上で、取捨選択する必要性がある。 本研究は、脳脊髄疾患による四肢の運動感覚機能障害の回復過程において、脊髄内の髄鞘や軸索ではどのような変化が起こっているのかを明らかにするのが最も重要な点であるが、最も重要な考え方は通常行われているMRIでは観察困難な、脊髄脊椎病変内の微細な構造変化の観察や定量化、およびマッピングと臨床症状等との相関および本手法の臨床的な有用性の検討であり、引き続きMRIデータの取集および解析を遂行する。また、様々な疾患群における横断的なでMRIデータ取集のみならず、個々の対象者で縦断的な変化を補足するための、ある一定の期間をおいての繰り返しのデータ収集も重要であると考えられ、その実現を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画時には予定していなかった研究代表者の施設の異動があり、かつ異動後に予定されていた海外研究者との海外における最新の情報交換や検討が、体調不良によりキャンセルせざるを得ない状況であったなど、研究そのものの遂行が困難であった。また、研究を開始する段階でのMRIの撮像手法の至適化に時間が必要となり、実査の患者群でのMRIデータ収集が思うように進行せず、想定を下回るデータ数で試験的な解析のみしか行えなかった。さらに本研究の妥当性を考慮した結果、研究計画以外の疾患群(進行性の特定の変性疾患等)のデータ収集の準備の必要があった。 本年度は、引き続き脊椎脊髄のMRIデータの撮像収集、解析を、健常ボランティアおよび病的状態にある場合の被験者で遂行し、前年度より加速して遂行する。このためのデータ収集のためのボランティアや、撮像および解析補助に関する謝金が必要となってくる。また、疾患群におけるMRIデータを、個人情報を保全、匿名化しつつ解析、運用するための機器や記憶媒体に関する費用が必要と思われる。 さらに、本研究に関する最新の知見、情報交換あるいは成果の発表のための国内外での学会、研究会への参加を予定している。
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