研究課題
以前より引き続き、脊髄脊椎のMRI撮像手法におけるより効率的なシーケンスの選択、撮像条件の調整、新たなモデルに基づくより高度かつ最新の画像解析法の検討、および得られた定量値の検討を正常ボランティアでの行った。本研究に関連する、過去の知見から、脊髄の軸索の定量的評価を目的とした撮像方法の選択として、周囲磁化率の変化が局所的に強い解剖学的条件下における脊髄のMRIデータ収集における特殊性から、撮像方法の選択は重要である。脳等で臨床的にも広く使用されているsingle-shot EPI法による評価ではなく、過去にも用いたSimultaneous Multi-Slice Readout Segmentation of Long Variable Echo-trains(RESOLVE)や局所励起技術を用いて、撮像条件の確認や妥当性の検討を引き続き行った。さらに、髄鞘の評価方法として、磁化率移動を用いた手法を主としているが、MRIにおける定量的緩和係数測定など、他の撮像手法も考慮し、撮像条件の最適化およびテスト撮像、解析を行った。また、画像の撮像後処理は脳科学で用いられているような手法を基本とし、最新の知見をもとに一部改変を行った。また、前年同様正常および疾患群のMRIデータより、脊髄の軸索および髄鞘の定量的変化を異なる解析手法により検討したが、想定よりデータ収集が遅延した。さらに当初より導入されている、脊髄MRI画像の客観的な解析手法の、Spinal cord toolboxを用いて、脊髄におけるMRI画像の定量値に関して解析を行い、その検討過程における技術的検討の結果の一部を、海外学会(国際磁気共鳴医学会)にて発表した。また、本ソフトウェアの開発者であるカナダ・モントリオール工科大学のJulien先生と、脊髄MRIの技術的問題点や今後の研究に関してオンラインで協議を継続した。
4: 遅れている
引き続き、MRIを用いた脊髄における拡散MRIでの複数の軸索や、髄鞘における定量化評価が可能となってきており、その撮像手法や撮像における各種パラメーター、および解析手法の選択や解析における条件の至適化等、正常値における妥当性の検討が行われた。また、新たに脊髄神経の賦活化の測定が可能となりfunctional MRIや、神経線維における微量金属の沈着や、ミエリン成分の多寡を測定可能なQSM(定量的磁化率マッピング)を臨床的に妥当な時間での撮像の可能性も検討された。ただし、脊髄という部位の特殊性および世界的にもみても同様の研究目的の結果の報告が僅少あるいは皆無であるという状況のもとに、いわゆる標準的な到達点の設定がしがたく、同様の神経組織である脳MRIの過去の研究結果を参考にして、類推しているのが現状である。いずれの検討にも想定より若干時間がかかり、かつ安定した十分な画質が確立されたとは言い難い状況である。従って、解析手法の妥当性に関しては、若干ではあるが前年より進展があると思われるが、実際の再現性や、現状でも特に臨床応用において、評価可能なレベルでの安定した解析目的に適する良好なデータの質とは言い難く、その定量値の不均一性の改善は依然として課題で残る。また、脊髄の疾患群におけるデータ収集に関しては、COVID-19の影響が後を引き、事前に予想した疾患群において本研究のMRI撮像へのエントリーが不足、遅延しているのが現状である。従って、本来の研究目的を見据えた、研究目標への到達には、さらに引き続きデータ収集を加速させる必要があるのは、前年度同様といえる。
本研究の遂行については、前年度同様、まず脊椎脊髄における定量解析を目的としてMRIデータの収集を、健常ボランティアおよび疾患群にて引き続き推進する方針である。脊髄脊椎MRIの部位の特殊性に起因すると思われる画質の不安定性による定量解析への影響を考慮し、COVID19の影響がようやく改善しつつある現状での様々なアクセスの制限の緩和などを要素として考慮すると、研究計画当初に想定した主たる対象疾患群(主に血管障害、脳腫瘍、脱髄性疾患等)のみのデータ取集、解析だけを考慮した場合、さらんる研究の遂行の進展の遅延がきたされると予想され、変性疾患なども、具体的には筋萎縮性側索硬化症や変形性脊椎症に伴う神経障害なども研究対象として考慮すべきであると予想される。また、MRIの撮像手法および、データの解析を行うための数的な理論や解析のための技術は、修正、更新され、新たに提唱、報告されている。したがって、研究計画当初に想定された撮像手法や解析手法のみの検討、再現では十分な研究とはいえず、さらに、新たな複数の方法論や技術的な革新の提案、特に人工知能、AI関連のされなる使用の考慮を鑑みたうえでの、より効率的かつ効果的な撮像および解析手法の検討や選択が、重要であるといえる。本研究における最も重要な点は、研究的撮像の確立のみではなく、臨床において、広く普及しているMRI撮像では評価が難しい、脊髄脊椎病変内の組織における微細な構造変化の観察および定量化、さらに視覚的に視認可能なマッピング、臨床症状や予後予想等との相関を示す事である。したがって、特に疾患群におけるMRI画像データの取集および解析を継続して遂行する。さらに、横断的なMRIデータ取集のみならず、縦断的なデータ収集および、そこから導き出される予後予測を可能とするために重要であると考えられる。これらの実現のための体制の再構築を目指す。
研究期間中に、研究計画時には予定していなかった研究代表者の施設の異動があり、かつ異動後における研究環境の構築の遅れがあった。また、COVID-19の影響により、COVID-19以外の患者の受診制限、正常ボランティアのMRI装置を含む医療機関へのアクセス制限など、本研究の最も重要な要素である画像のデータ収集にも大きな障害があり、研究そのものの遂行が困難であった。それに関連して、まず本研究の基礎となる脊髄脊椎MRIの撮像手法の至適化に時間が必要となり、想定を下回る不十分なデータ数で試験的な解析のみしか行えない現状があった。さらに本研究における結果の妥当性を検討し、研究計画時の想定以外の疾患群(進行性の特定の変性疾患等)のデータ収集を考慮し、準備する必要性があった。本年度は、脊椎脊髄のMRIデータの撮像収集、解析を、健常ボランティアおよび病的状態にある場合の被験者でさらに加速して実施する。このためのデータ収集のためのボランティアや、撮像および解析補助に関する謝金が必要である。また、疾患群におけるMRIデータを、個人情報を保全、匿名化しつつ解析、運用するための機器や記憶媒体に関する費用が必要と思われるさらに、本研究に関する最新の知見、情報交換あるいは成果の発表のための国内外での学会、研究会への参加を予定している。
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