放射線によるがん治療の現場において、放射線治療をこれまで以上にパワフルで安全性の高いがん治療法に昇華させるためには、放射線障害に対する予防・治療法の開発が必須である。本研究では、放射線障害の病態を再現する動物モデルと、防護効果を有する分子として繊維芽細胞増殖因子(FGF)を用い、放射線障害に対する安全性の高い新たな予防・治療薬開発を見据えた基盤研究の展開を目的とする。 FGFがその機能を発揮するためには、標的細胞上のFGF受容体に結合する際、ヘパリンとの三者複合体を形成する必要がある。複数のFGFが創傷治癒や放射線照射による腸管障害の治療に使用されており、ヘパリンと共に投与される。しかしながら、外因性のヘパリンには強い血液抗凝固作用があるため、臨床での使用は制限されていることから、血液抗凝固作用を持たず、FGFとその受容体と三者複合体を形成してFGFの機能を発揮できる分子が必要とされている。ヒアルロン酸(HA)はヘパリンと似た構造を持つ糖鎖であり、硫酸化することでFGF2と相互作用することが知られている。前年度までに、高硫酸化HAが出血の危険性が極めて低い糖鎖であり、in vitroにおいてFGFに対するヘパリンの機能の代替物としての可能性があること、ガンマ線照射による腸管障害マウスモデルを用いて検討した結果、照射24時間前の硫酸化HAをFGF1と共投与することにより抗アポトーシス活性を示すことを明らかにした。R5年度は放射線による腸管障害に対する硫酸化HAの防護能及び硫酸化レベルの違いによる影響を検討した。その結果、高硫酸化HAは他のグリコサミノグリカンに比べて含水能力が高いだけでなく、出血のリスクも低く、FGFやVEGFなどのシグナルカスケードを活性化することを明らかにした。したがって、高硫酸化ヒアルロン酸は急性放射線皮膚障害に対する治療に有効である可能性が示唆された。
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